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第2回食育シンポジウム

~国民視点で考える食育と学校給食~

ー前編ー

食育基本法が制定されてから間もなく14年目を迎えます。同時に食育の根幹に位置する学校給食は、児童・生徒の栄養・健康管理の有力な手段として、ますます重要な教育施策になってきました。
学校給食現場で日夜努力している学校栄養士、調理員、そして学校給食の食材を提供するために頑張っている生産者、教育関係者、行政はどのように食育を考えているのか。そして学校給食を食べている児童・生徒と一般国民の間をつなぐメディアは、どのように理解して報道しているか。その課題について熱い討論を展開しました。
その様子を報告します。

 

 

日 時  2019年3月23日(土) 午後2時から5時まで
会 場  プレスセンタービル9階、日本新聞協会記者会見場
主 催  特定非営利活動法人21世紀構想研究会

 

パネルディスカッション
① 行政代表
清久利和(文部科学省初等中等教育局健康教育・食育課・食育調査官)
② 現場代表
瀬川 久美子(東京都日野市立日野第一小学校・学校栄養職員)
③ 一般代表
中山拓郎(株式会社Daisy Fresh)
④ メディア代表
佐藤 弘(西日本新聞編集委員)
モデレーター
馬場錬成 21世紀構想研究会理事長・全国学校給食甲子園事務局

 

開会挨拶

馬場 本日は大勢の方々が食育シンポジウムに参加いただき、ありがとうございました。私はシンポジウムのモデレーターになります特定非営利活動法人21世紀構想研究会(以下、21世紀構想研究会)理事長の馬場錬成です。
それでは開会の挨拶を銭谷眞美さんにお願いいたします。銭谷さんは東京国立博物館館長であり、元文部科学省事務次官をお務めされた方です。全国学校給食甲子園実行委員長であり21世紀構想研究会のアドバイザーとして私たちのリーダーになっている方です。

銭谷 ただいま紹介をいただきました銭谷です。21世紀構想研究会が主催している全国学校給食甲子園は、昨年13回を迎え全国から1701施設の応募がありました。毎年、学校栄養士と調理員のコンビが学校給食をつくり、衛生管理、調理法、栄養管理、味つけ、見た目など総合的な評価で競うものです。
日本の学校給食は、戦後間もなくアメリカから支給された脱脂粉乳、小麦粉をもとに牛乳とパンという基本形から始まりました。昭和29年には学校給食法が制定され、当時の文部省の体育局の中に学校給食課をつくり、学校給食を教育の中にきちんと位置付けたものとしてその後発展してきました。
現在は初等中等教育局の健康教育・食育課が担当しており、2005年の食育基本法の制定後は、栄養バランスだけでなく健康と食の問題や日本の食文化についても広く教育し、正しい食生活と健康管理や食文化について国民にも理解していただくということで活動されています。
本日のシンポジウムは、4人の方々がそれぞれの立場からご発言され、実りある討論と成果が期待されますので楽しみにしております。

馬場 ありがとうございました。ここで21世紀構想研究会事務局長の峯島朋子から配布資料の説明があります。

峯島 シンポジウム資料と、昨年実施された第13回全国学校給食甲子園のプログラムと報告書を配布しましたので、ご覧いただきたくお願いいたします。

馬場 それでは4人のパネリストから冒頭の発言要旨の発表をお願いいたします。佐藤弘さん、瀬川久美子さん、清久利和さん、中山拓郎さんの順でお願いいたします。

 

パネリストの活動報告
佐藤 西日本新聞社の佐藤弘です。きょうは、レベルの高い方が多いので、挑戦的にいきます。
さて、私はこれまで、いろんなところで、いろんな形の「食育」を取材しましたが、あまりろくな食育には出会ったことがありません。
私が考えるその理由はこうです。真ん中に「食」を置き、それを動詞で囲んだ「食の循環図」=イラスト=を見てください。

 

 

 

食を考える際、多くの人は、「食べる」ことでしかとらえません。だから、「これを食べると元気になる」、あるいは「病気になる」といった情報に右往左往してしまうことが多い。
でも人の健康度がわかるのは、何を食べたかより、何を出したかの方でしょう。ぷりっと格好がよくてキレがいいのが出るときは、腸内細菌がよく働いている証拠。そう簡単には病気になったりしません。
また「食べる」前には「作る・捕る」もあります。いつ、どこで、だれが、どのように作ったかで栄養価は変わるし、それを受け入れる私たちの体の状態も季節によってまた違うのですから。
食べ物には食べるべき時期と、食べ方があります。栄養は大事だけれども、栄養だけで健康を論じると、間違ってしまう。
さらに、「買い物する」「調理する」「土に返す」といった行為に、感謝やひもじさといった「感覚」「心」の問題と合わせて食育は考えるべきだと思い、私は2003年から西日本新聞で長期連載「食卓の向こう側」を展開してきました。

 

抜けたのは何だろうか?
ところが、この食の循環図には、ある大きな「行為(動詞)」が抜けていました。さて、それは何か、というのが、第一の問いかけです。
答えは「噛む」=イラスト2=です。だってそうでしょう。ゴマを噛まずに飲み込んだらどうなりますか。そのまま排泄されるだけです。つまり、噛んで初めて栄養になるのです。

 

 

私がそのことに気付かされたのは、あるシンポジウムの席上でした。
「地元でとれた農産物を食べることこそ、あなたとあなたの家族、そして地域経済の健康を守る」。そう話をまとめようとした私の発言に、歯医者さんが噛みついたのです。
「佐藤さん。あなたは先ほどから食材のことばかり言われるけど、首から下のことは考えていますか。どんな食べ物も噛まなければ意味がないんですよ」
私はハッとしました。栄養やおいしさ、新鮮さなどばかりに気をとられ、噛むという「機能」について全く考えていなかったのです。
それから4年。口をテーマに連載しようと取材を進め、発表したのが、「食卓の向こう側第13部・命の入り口 心の出口」でした。
噛むことをおろそかにしたつけは、さまざまなところに出ています。
ある小学校の食育授業を取材した折、私が驚いたのは授業の内容ではなく、口を開けた子ども多さ。数えると、実に33人中22人が口を開けていました。
ところが、教師にはそれがわからない。子どもの目は見ても、口は見ていない。お口ポカンが悪いということを知らないから、まったく見えない=注意を払っていないわけです。

 

 

なぜ口が開くのか。それは噛む回数が減っているから。
よく噛むと舌が動いて鍛えられ、舌の先っぽは口蓋(口の天井部分)について鼻呼吸に。でも噛む回数が減ると、舌が垂れ、自然と口も開き、口呼吸になる。そしてそれは大いに人の健康とつながっているのです。
人が吸っている空気の量は、1日1万リットル、重さにして約15㌔にもなります。インフルエンザは、乾燥して寒くなる季節にはやりますよね。乾燥し、冷たい空気を、鼻というフィルターを通して取り入れるか、そのまま口からとりいれるか。そこに運命の分かれ目があるのですが、いまの若者は口が開いていることが多い。最近、こんなにインフルエンザが流行するのも、この口呼吸の増加に一因があると、私はみています。

 

 

学校給食に携わる皆さん。噛むことを視野に入れていますか。それが私の第2の問いかけです。

 

新選組で有名な日野市から来ました!
瀬川 皆さんこんにちは、東京都日野市は新選組で有名な街です。私が勤務している日野第一小学校は460食を作る自校式の学校給食で、パートを含む調理員5名、栄養士1名で毎日、学校給食を調理・提供しております。
日野市は農家さんとの交流が盛んな街であり、年間を通じて少量多品目の農産物が栽培・収穫される都市農業が盛んな地域です。住宅の中にも畑があるような街であり、子供たちが身近に畑の話をするような環境で育っています。
学校給食も毎日のように農家さんから提供された食材を使って調理しています。また、市の職員、ボランティア、実践女子大学の方々などたくさんの人々の支援をいただいて日野産の大豆を育てるプロジェクトも行っています。

 

 

日野市の給食は、ひと手間かけた素材からの手作りを基本としています。ドレッシングなども手作りできるものは手作りをしています。
日野市の食育としては、オリンピック・パラリンピック給食をはじめ、様々なことに取り組んでいます。ひのっ子シェフコンテストでは、給食甲子園のように児童に料理をしてもらうコンテストであり、調理員と栄養士も評価する立場としてかかわっています。子供たちが考え、実際に調理するコンテストになっています。

 

 

秋の収穫期になる11月には、19日の食育の日を「日野産野菜給食の日」とし、日野産の食材をたくさん使った給食を作っています。テーブルマナー教室は、中学校で行っております。
「本物工房ひのトマトまるごとピューレ」は、日野産のトマトを活用して作ります。このトマトピューレを使って、給食を作ることもしています。

 

毎日が食育
毎日の学校給食が食育です。毎日、給食時間にはお手紙を出しています。その手紙に美味しかった、良かった等の感想を書いてくれるクラスもあります。お手紙をもらったら必ず返事を書いて、担任経由で渡してもらい子どもたちとコミュニケーションを楽しみながらおこなっております。

 

ランチルームでの給食は、いつもと違う雰囲気で食べることが子供たちは楽しみのようです。

 

授業と連携した食育では、味噌の種類の授業(1年生)やだしについての授業(5年生)などを行いました。工夫して教材を作り、子どもたちに分かりやすく喜ばれる授業を目指しております。
だしの授業では、子供たちがあまり飲んだことのないだしの素材を味わってもらいましたが、おいしくないと言いました。しかし学校給食で出した汁物の料理はおいしいとのこと。このことを学びに繋げ、だしは食材と一緒になることで美味しさを引き立てることを伝えました。

 

 

また、外部から講師をお呼びして文様についての授業(5年生)も行いました。図工の授業へとつなげたもので、お皿にある文様について学び、児童が自身で文様を考え、飾り皿に描くというものです。
調理員直伝の食育イベントも開催しました。親子で参加の食育イベントを開き、家庭でも手作りのおいしさを味わってほしいことを伝えました。
全国学校給食甲子園に応募したのは、日野市の学校給食を知ってもらいたいという思いからでした。決勝戦に出場する機会をいただきとても嬉しかったです。優秀賞をいただけたことを報告すると、喜んでいただくことができました。日野市の全小中学校で「給食甲子園メニュー」が提供されました。また、学校給食以外でも提供の場を設け、約140名の方々にも食べていただくことができ、市民の方々をはじめ、色々な方に日野市の給食を伝えるきっかけとなりました。
食育の「わ」は、ふとしたことがきっかけでつながります。給食をきっかけに、子供たち、保護者、先生、地域の方と食育を広めることができると思っています。笑顔でおいしいと食べてもらえる給食を作り、その給食をきっかけに「わ」を広げていくこと、それが私の目指す食育です。

 

「清久・正しく・元気よく」参加しました
馬場 続きまして清久さんから行政からの食育活動について発表をお願いします。
清久 文部科学省の食育調査官を務めております清久です。清く・正しく・元気よくが私のキャッチフレーズでございます。小学校の教員をやっていました。一年前から東京に転勤になり単身赴任になりましたが、今朝も野菜をたくさん入れたみそ汁を作って朝ごはんを食べてきました。
この一年、一人できちんと食事を作って食べることができました。これは以前から食について管理能力があったからだと思いました。子どもたちにも食に関する自己管理能力を付けさせることが一番、大事なことだと思っております。現在、文部科学省としてつながる食育推進事業をやっています。

 

 

その一つが、保護者が子どもと一緒に参加する親子料理教室です。子どもが教室に戻ったあと、保護者と話し合うのですが、そうした機会を設けることで保護者が食について考える機会になるのです。

 

 

地域の生産者や食に関わる人々と子供が交流する機会を作ることもやっております。さらに学校種を超えた連携や地域の様々な世代との交流を図ることも試みております。
写真は高校生と小学生の交流ですが、小学生は食について上級生から学び、高校生は年下の小学生を世話をするようになります。ある学校では、このようなことをすることで、不登校だった生徒が登校するようになったという例もあります。

 

 

現状の課題をデータで把握し、子供・家庭・学校が情報を共有することが大事になります。・学校と家庭との双方向での情報交換を図ることによって基本的な食習慣の定着を図ることができるようになります。
その方法として食習慣チェックのシートを作りました。子どもたちがどのような食生活をしているのか。それを自分でチェックすることになります。
単に記録するだけでなく、自分でも感想を書き入れるようにしている。同時に保護者と教師の言葉も書き入れるようになっています。そのことで子どもたちは、自分のことを見ていてくれると思うようになります。学校に持っていくと先生がコメントを入れます。
このように双方向の情報によって、お互いに子どものことを見ているんだなということが分かります。
つながる食育推進事業を推進してきた成果ですが、取り組む前と取り組み後では明らかに児童生徒の意識が変わってきたことが分かります。
① 朝ごはんを食べること、②家族と一緒に食事をすること、③栄養バランスを考えた食事をすること、④ゆっくりよく噛んで食べること、⑤食事マナーを身に着けること、6伝統的な食文化や行事食を学ぶこと、⑦食事の際に衛生的な行動をとることなど7つの項目について子ども意識調査をしたところ、大切だと思う子供の割合は、いずれも取組前より取組後の方が高くなっており、取組を通じて子供の食に関する意識 が高まったことがわかります。

 

馬場 ありがとうございました。それでは続いて中山拓郎さんにお願いいたします。

 

地域に密着した食育活動で毎日が大忙し
中山 まず、自己紹介させていただきます。1973年埼玉県草加市で農家の5代目として生まれました。埼玉県杉戸農業高等高校を卒業後に鉄道系スキー場関連事業に従事しまして、2001年に結婚を機にUターンして家業を継ぐことになりました。
野菜つくりと加工をやっていましたが、畑を通じて本当の野菜の姿や美味しさそして大切さを伝えることをテーマとすることを考えて、2005年にファーマーズハウスChavi Peltoをオープンしました。

 

 

学校給食との関りは、これまで約18年になります。自社栽培農産物から納入を開始して、現在では食材納入業者として埼玉県内産農産物を主に、全国より市場流通以外で納入する独自のルートを開拓しました。
作る人と食べる人が繋がるネットワークを構築し、店舗に隣接した畑では収穫体験や畑、野菜の授業を通じて食育活動やイベントを開催しています。都市農業と街と教育をつなぐ活動をしています。

草加市は、東京より約20キロ距離であり、電車で40分のところです。私の拠点は、草加駅より500メートル、徒歩5~7分ほどのところであり、近隣小学校までの距離も徒歩5-7分です。周囲はマンション・賃貸住宅・戸建て住宅・駐車場などで埋まっており、耕作面積は畑が約三千平米、田んぼが約二千平米です。
草加市の人口は約25万人ですので農家の割合は市全体の1%にも満たないものです。10年間で約100世帯の農家が廃業していて、いま専業農家は2%程度なってしまいました。
学校給食へ食材納入の取り組みでは、平成13年に近隣の学校に小松菜の納入開始し、廃棄予定の大根の間引き菜を栄養士に提案して考案された『葉大根とジャコのふりかけ』が全校献立に採用されました。
店舗開店後には、農産物納入業者として栽培農産物以外の野菜の納入を始め、栄養士と連携して栽培した小松菜を店舗で加工し『小松菜スパイスカレー』が農水省食料産業局長賞を受賞しました。
各学校にローカライズされまして、全校献立に採用されました。野菜の栽培から調整、そして給食で食べるまでを児童が行い『命をいただく』『地元の野菜を知る』を伝える食の総合授業を小学と連携して行っています。

 

 

このように自分で栽培して収穫した野菜を学校給食で食べることで、子どもたちの意識が変わってきます。他人に作ってもらった食材を給食で食べることでも、生産者への思いがでるので残渣が少なくなり、いただきますの言葉が実感として分かってくるという効果もあります。
街とつながり12次化を進めることでは、農産物の栽培(1次化)とし、農産物販売(2次化)、そして加工販売・飲食(6次化)になり、収穫体験・食育(4次化)、業務用生ごみ処理機による堆肥化(11次化)、そして肥料として自家利用(12次)というつながりを広げています。

 


 

 

写真・21世紀構想研究会事務局 福沢史可

 
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