菜の花
NO.49
萌黄色で春を運ぶ菜の花
子どものころ、叔父が晩酌で食べていた青い茎の野菜を一緒になって食べるのが大好きでした。大人はからし和えを食べていましたが、子どもはかつお節にしょう油だけのシンプルおしたしであり、あの苦みがおいしく感じられたものでした。
長じてあのおしたしが菜の花と知ったときは、本当にびっくりしました。それは緑黄色に畑を埋め尽くした菜の花畑を見たときに、いとこから言われて知ったことですが、信じられない気持ちでした。菜の花は春を運んでくれる代表的な野菜でした。
地方に出張に出かけると、車窓から萌黄色を敷き詰めた菜の花畑が見えてくると、思わず身を乗り出して眺めていました。蕾のうちはグリーンですが開花すると萌黄色一色のじゅうたんになるのです。
料理油として大活躍!
菜種油の、種子を絞って油をとりそれを酸性白土で脱色精製したものが「白絞油(しらしめ油)」または「水晶油」と呼んで食用としています。いまでは、菜種から精製される油脂の代表は、サラダ油とキャノーラ油です。
サラダ油は1924年に日清製油が「日清サラダ油」の商品名で販売したのが最初です。またキャノーラとは、Canadaとoilを組み合わせた造語です。カナダで栽培されているものを品種改良した菜種の一種で、キャノーラ油は不飽和脂肪酸のオレイン酸リノール酸、リノレン酸が含まれています。加熱に強く風味もよいので揚げ物、ドレッシングに使用されるポピュラーな油になったのです。
紀元前から世界中で広く栽培
菜の花はアブラナ科の野菜で、仲間にはブロッコリー、カリフラワー、芽キャベツ、ダイコン、ワサビ、クレソンなどがあります。
アブラナとは、元々種子から油を採る植物の総称です。菜の花は菜種油をとる目的で紀元前から世界中で広く栽培されていました。原産地は北ヨーロッパからシベリアで、日本には弥生時代に中国を経て入ってきたと言われています。
奈良時代までは、葉を食べる野菜でしたが、平安時代になると種から油を絞る菜種油の原産種となりました。菜種油は燃料になるだけではなく、肥料としても利用されるようになっていきました。江戸時代に入ると、照明用の油火としてあんどんに明かりをともす油に利用されるようになり、急激に需要が増えました。菜の花が植物油を採るために栽培されたのは、江戸時代からのようです。
栄養価の高い緑黄色野菜
菜の花が食用として栽培されるようになったのは、明治時代以降です。植物油の原料としてはセイヨウアブラナの種ですが、在来種の菜の花は緑黄色野菜として生産し、開花前に収穫、出荷されて市場に出回るようになったのです。
菜の花は食べられる時期が限られています。花が咲くと味が落ちてしまうので、花が咲く前が食べごろです。菜の花のおいしい時期は1月から3月頃までが旬になっています。野菜として食べるのは10cmまでの花茎です。
菜の花は、特に栄養価の高い緑黄色野菜としての人気が高く、栽培面積も年と共に増えてきています。主な産地の中でも、花蕾を食べる種類は千葉県が50%を占め、次いで香川県、徳島県、高知県と続きます。葉茎を食べる種類は、三重県が40%を占め、他に福岡県、群馬県、岐阜県などが上げられます。
一般的に花蕾には、植物の持つ栄養がたくさん詰まっています。菜の花の100g当たりのビタミンA効力は1600IUとホウレン草並み、カルシウムは150mgとホウレン草の3倍、鉄は207mgとブロッコリーの約3倍、その他ビタミンB1・B2、ビタミンC、β-カロチンが含まれています。
血液サラサラ効果、血圧降下、ガン予防、貧血、冷え性、疲労回復、美肌効果が期待できます。濃い緑の彩りや、ほろ苦い辛み、食物繊維を感じさせる歯触りがとてもいいので、筆者もよく食べています。筆者は子ども時代の味覚を忘れられずに、茹でた菜の花に削りかつお節を振りかけ、薄口しょうゆだけで食べるのが大好きです。
健康野菜としても存在感
調理時は茹ですぎず、水にさらし過ぎはビタミンCが流れ出すので、手早く下ごしらえします。加熱により、カロチンもやや減少しますが、油脂と一緒にとるとカロチンの吸収率が高まります。
菜の花の辛味は、アブラナ科野菜だけに含まれている「イソチアシネート」です。アメリカ国立がん研究センターは、ガン予防を目的とした食品の研究を行い、アブラナ科食品も上げています。イソチアシネートは特にダイコンやワサビに多く含まれ、辛い野菜ほど含有量が多いものです。菜の花をよく噛んで食べると野菜の細胞が壊れ、イソチアシネートの吸収を高めるということです。
文:ばばれんせい 絵:とよだゆき
菜の花の食品成分
出典:食品成分データベース
順位 | 都道府県 | 収穫量 | 割合 |
1位 | 千葉県 | 1,946t | 44.80% |
2位 | 徳島県 | 715t | 16.50% |
3位 | 香川県 | 588t | 13.50% |
4位 | 高知県 | 206t | 4.70% |
5位 | 茨城県 | 167t | 3.80% |
6位 | 京都府 | 106t | 2.40% |
7位 | 大阪府 | 103t | 2.40% |
8位 | 大分県 | 97t | 2.20% |
9位 | 滋賀県 | 79t | 1.80% |
10位 | 和歌山県 | 59t | 1.40% |
11位 | 鹿児島県 | 46t | 1.10% |
12位 | 兵庫県 | 43t | 1.00% |
13位 | 福岡県 | 40t | 0.90% |
14位 | 愛知県 | 34t | 0.80% |
15位 | 神奈川県 | 32t | 0.70% |
16位 | 群馬県 | 20t | 0.50% |
17位 | 宮城県 | 14t | 0.30% |
18位 | 愛媛県 | 13t | 0.30% |
19位 | 長崎県 | 11t | 0.30% |
20位 | 長野県 | 8t | 0.20% |
21位 | 岡山県 | 5t | 0.10% |
22位 | 福島県 | 2t | 0.00% |
22位 | 富山県 | 2t | 0.00% |
22位 | 静岡県 | 2t | 0.00% |
22位 | 広島県 | 2t | 0.00% |
26位 | 岩手県 | 1t | 0.00% |
26位 | 埼玉県 | 1t | 0.00% |
26位 | 石川県 | 1t | 0.00% |
29位 | 福井県 | 0t | 0.00% |
29位 | 山梨県 | 0t | 0.00% |
X | 北海道 | X | X |
データが非公表の都道府県は「X」
出典:地域の入れ物
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