食のこばなし

ブリ(鰤)

NO.24

祝い事には出世魚が引き立て役

ブリと聞くと筆者が必ず思い出す光景があります。社会人になりたてのころですから、もう半世紀以上も前の話です。北陸へ取材に行ったとき取材先でブリ茶漬けをご馳走になりました。

ブリの刺身とブリの醤油漬けとブリの醤油焼きをご飯の上に載せ、熱い番茶をかけ、海苔とわさびを添えて出てきました。三種類のブリの切り身の風味とうまみが、舌にとろけるように絡み付いてきます。筆者がすすりあげる顔を覗き込むようにして「どうです、おいしいでしょう?」と言わんばかりのおばあちゃんの顔が今でも忘れられません。どこに何の目的で取材に行ったのか、どうしても正確に思い出せないのですが、この時のことは鮮明に思い出すのです。

厳寒の日本海で獲れた天然ブリを「寒ブリ」と呼び、冬の高級魚の代名詞になっています。富山、新潟、鳥取県などが主な産地で、脂ののったピンクがかった白身の切り身は、刺身にしても焼き魚、煮魚にしても最高の味です。ブリ大根は、ブリとダイコンの風味を相互に引き立てる炊き合わせであり、筆者の好物のひとつです。

ブリは成長と共に名前が変わっていくので出世魚と言われています。江戸時代までは、武士階級や学者は、成人の儀式になる元服や出世したときに名前を変えていく風習からとったもので、ブリも稚魚から成魚まで成長段階で異なる名前で呼ばれています。地方によっていろいろ違いますが、代表的なのは関東のイナダ→ワラサ→ブリであり、関西はハマチ→メジロ→ブリです。

ぶりのように出世しましょうという意味でしょうか。おめでたい席によく出され、西日本ではお正月には欠かせない魚になっています。日本海側では各地で獲れたブリが、佐渡ブリ、氷見ブリ、能登ブリなどと地名をかぶせた名物になっています。

厳冬の日本海「ブリおこし」で育った寒ブリ

民俗学者の市川健夫先生(東京学芸大学名誉教授)は、日本各地の動植物にちなんだ民俗学を研究した第一人者であり、日本列島には食文化の境界線があるという話には引き込まれました。大きく分けると新潟県糸魚川から静岡県に至る日本列島を横断する境界線が食文化を分けていると言います。

この境界線がフォッサマグナ(大きな地層)と一致しており、食の文化が二分されてお正月の祝い魚は、この線から西はブリであり、東はサケになっているというのです。

富山湾で獲れる寒ブリは特に味がよいので有名です。11月から2月にかけ、日本海は冬型の気圧配置になって海は大荒れになることが多く、ブリが富山湾に逃げ込んでくるところを定置網で獲る漁法が昔から行われてきました。このようなしけを地元では「ブリおこし」と呼んでいるそうです。

その昔、富山湾で獲れたブリは、雪深い峠をいくつも越えて、信州まで運ばれて行きました。たとえば越中から飛騨に至る道筋にはいくつかの関所があって、一尾あたりいくらという通行税を支払い、ボッカ(歩荷)に背負われて命がけで運ばれたブリが「飛騨ブリ」として高価な値段が付けられました。

ブリのうまみは、脂肪分が筋肉組織の中に入り込んでいるためで、うまみを感じさせる成分も他の魚に比べて多いのです。うまみ成分はサバとほぼ同じとされており、かつお節のうまみ成分であるヒスチジンやトリメチルアミンなどが多いのです。

 

栄養分に富んだ養殖魚の王様

ブリの栄養素には、鉄やビタミンB群、ビタミンD、DHA(ドコサヘキサエン酸)、EPA(エイコサペンタエン酸)が豊富に含まれています。鉄は赤血球のヘモグロビンの成分として使われるものであり、ビタミンB12もヘモグロビンの成分の一つです。ビタミンDは、カルシウムの吸収を助けて骨の形成に欠かせない成分です。

DHAは、記憶力の低下を防ぎ、老人性痴呆症の予防や症状を軽減し、子供の知能発達を促進すると言われています。さらに情緒を安定にし、視力回復にも役立っています。またEPAには血栓予防の効果があり、アレルギーを抑えるホルモンの材料にもなっていると言われています。

ブリの漢字は、魚偏に師と書いて鰤と言う字ですが、なかなか風格があります。名前の由来は、「あぶら」がなまったという説、「年経る魚」の「ふる」がなまって「ぶり」になったという説があります。

ハマチはブリの養殖魚のことを言います。ブリの養殖は1972年に香川県で最初に行われ、これが日本の養殖漁業の第1号でした。かつて養殖漁業といえばハマチのことでしたが、この伝統はいまなお引き継がれており、全養殖漁業の中でいまでもトップを譲りません。

文:ばばれんせい 絵:とよだゆき

 

ぶりの食品成分

出典:食品成分データベース

 

ぶりの漁獲量の都道府県ランキング(平成30年)(かんぱち・はまちなどを含む)

順位 都道府県 漁獲量 割合
1 長崎県 14,113t 14.10%
2位 島根県 9,578t 9.60%
3位 千葉県 8,948t 9.00%
4位 北海道 8,264t 8.30%
5位 鳥取県 8,159t 8.20%
6位 岩手県 7,546t 7.60%
7位 石川県 6,440t 6.40%
8位 三重県 4,646t 4.60%
9位 高知県 4,622t 4.60%
10位 宮城県 3,257t 3.30%
11位 福岡県 2,505t 2.50%
12位 愛媛県 2,065t 2.10%
13位 茨城県 1,867t 1.90%
14位 青森県 1,694t 1.70%
15位 新潟県 1,580t 1.60%
16位 大分県 1,533t 1.50%
17位 福井県 1,523t 1.50%
18位 鹿児島県 1,520t 1.50%
19位 宮崎県 1,457t 1.50%
20位 山口県 1,451t 1.50%
21位 神奈川県 1,099t 1.10%
22位 富山県 1,040t 1.00%
23位 和歌山県 1,028t 1.00%
24位 静岡県 905t 0.90%
25位 京都府 770t 0.80%
26位 徳島県 518t 0.50%
27位 秋田県 453t 0.50%
28位 熊本県 387t 0.40%
29位 兵庫県 258t 0.30%
30位 福島県 161t 0.20%
31位 佐賀県 131t 0.10%
32位 山形県 114t 0.10%
33位 愛知県 74t 0.10%
34位 広島県 74t 0.10%
35位 香川県 61t 0.10%
36位 東京都 34t 0.00%
37位 岡山県 27t 0.00%
38位 沖縄県 21t 0.00%
39位 大阪府 10t 0.00%
  栃木県
  群馬県
  埼玉県
  山梨県
  長野県
  岐阜県
  滋賀県
  奈良県

出典:地域の入れ物