ハマグリ
NO.26
きれい好きで移動する貝
ハマグリの名前のいわれは、浜の小石(クリ)とか形が栗に似ているためについたと言われています。中国ではどういうわけか、スズメが海中に入ってハマグリとなったという言い伝えがあるそうです。
旬は、春3月、4月とされており、「夏のハマグリは犬も食わぬ」と昔は言われていました。夏は味が落ちてまずくなるので、誰も食べないということです。潮干狩りのころのハマグリは、まずい季節であり漁師は「お勧めしない」そうです。
塩分濃度のやや薄い内湾の砂地に 好んで生息していますが、なかなかの清潔好きで、環境が悪くなると粘液のヒモを出し、引き潮に引かれて移動するというのです。アサリは一生涯ほとんど同じ場所にいますが、ハマグリは移動するのが特長なのです。
ハマグリが出す粘液は、蜃気楼にたとえられており、初午(はつうま)にハマグリを食べると、鬼気に犯されなくて済むとも言われています。初午とは2月になって最初の午(うま)の日のことです。今年は2月3日であり、全国の稲荷神社ではお祭りがありました。
かって日本列島の海岸の砂地には、ハマグリはごく普通に生息していました。しかし環境の悪化でハマグリが移動を始め、乱獲の影響も受けて多くが姿を消してしまいました。国内では有明や鹿島灘のハマグリが有名です。鹿島灘ではハマグリの出漁回数、時間、漁獲量などを漁業者が自ら厳しく設定してハマグリの資源を管理しています。
いまスーパーなどの店頭に並んでいるハマグリは、 ほとんどが中国、韓国などからの輸入品で、シナハマグリと呼ばれるハマグリです。シナハマグリは日本にはもともと生息しないハマグリで、殻の大きさはハマグリとほば同じですが、日本のハマグリに比べて前後にやや短く、丸い感じがします。
これほどめでたきものなし
ハマグリは、縄文時代から食べられていた貝で、貝塚から多数の遺物として出土しています。ハマグリの貝殻は、ちょうつがいの形がそれぞれ違うので、一度はずしてしまうと他の殻とは決して合わなくなっています。
平安時代の「源氏物語」には、貝合わせの話が出てきますが、これは360片の貝殻が、対になっているもの以外は合わないので、これを合わせる遊びを書いたものであり、この貝殻はハマグリであると言われています。
このようにハマグリの貝殻は、対になったもの以外は合わないので夫婦の結びつきにもたとえられています。
結婚式のお膳にハマグリの吸い物が出るようになったのは、江戸時代の八代将軍徳川吉宗が発案したと言われています。
「三省録」(1832年)という書物に、吉宗公の定めとして「ハマグリは数百数千集めても、ほかの貝に会わざるものゆえ、婚礼を祝するにこれほどめでたきものなし」という記述があります。夫婦和合のたとえになったハマグリは、やがて結婚式だけでなく、各種のお祝い膳、お正月料理、ひな祭りなどおめでたい席には欠かせない食材となったのです。碁石の材料にも
ハマグリの栄養成分は、たんぱく質、各種ビタミンの含有量はそれほどではありませんが、グリシン、アラニン、グルタミン酸、コハク酸など甘味とうまみを出すアミノ酸が多く含まれています。ハマグリのおいしさはここにあるのです。
鮮度のいいハマグリは、貝殻に溝がなくなめらかであり、殻をきつく閉じているものです。殻をぶつけるとカチカチと澄んだ音のするものがいいハマグリとされています。
三重県桑名市は東海道五十三次の宿場町として栄えたころから、伊勢湾でとれた新鮮なハマグリをだしたので「桑名のハマグリ」として有名でした。名物料理は、むき身にショウガを入れ、たまり醤油でゆっくり煮詰めたもので「しぐれ煮」とも言われています。
江戸時代からのしゃれ言葉に「その手は桑名の焼きハマグリ」があります。そんな手にはだまされませんよと碁や将棋を楽しみながら言ったり、「桑名の殿様しぐれで茶々漬け」などのしゃれ言葉も言われてました。
ハマグリは、碁石の材料としても貴重な資源になっています。これはチョウセンハマグリですが、別名ゴイシハマグリとも言われています。内湾に生息するハマグリとは違って、外洋の水深約20メートルの砂地に生息し、殻の長さは12センチにもなる大きなハマグリです。十年ものでないとだめだということです。味がいいので寿司ネタにもよく使われています。
文:ばばれんせい 絵:みねしまともこ
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