食のこばなし

クリ

NO.14

 日本民族が古代から最も親しんできた樹木の一つはクリの木です。クリの木は日当たりのいい山地や丘陵などに自生していましたが、日本民族も平地よりも山地を好んで住居を構えていました。明治維新後、北海道の開拓民として本土から多くの人々が渡りましたが、広大な平地を好まず山地や丘陵から入植していったと言われています。

クリの木は成長が早く、しかもよく燃えるのです。硬くて重く腐りにくい材質であり、建物の柱や土台として使われてきました。青森県で出土した縄文時代の三内丸山遺跡にある、巨大な建造物を支えた六本の主柱はクリの木でした。遺物の中から多数のクリの実が出土しており、縄文人はクリの木を育て、建材や燃料として使い、実を食べていたのです。長野県上松町のお宮の裏森遺跡の竪穴式住居跡からも発見されています。遺物をDNA鑑定すると、一万六千年前のまぎれもないクリの実でした。このようにクリの木は、縄文時代から延々と建造物の土台や柱として使われ、時代と共に家具類や鉄道の枕木などに利用されてきました。そしてクリの実は、秋に収穫する山の恵みとして私たちに多くの幸せ感を運んできました。

これだけではなく、中国ではクリは薬用としても利用されてきました。薬用部位は、クリの木の葉、針のかたまりのようなイガそして実です。いずれも採集して緑色が残るように日干しにするとされています。葉はカロチンとタンニンが含まれ、渋皮にも多量のタンニンが含まれています。タンニンは、炎症を抑える作用があるので、けがをしてはれた場合に利用されてきました。

また昔から、葉やイガ部分を煎じた飲み物は、食欲不振、下痢などに効用があるとして利用されてきました。ウルシなどの植物のかぶれや虫刺されにも効いたようでクリは薬用植物としても永い間、存在感をもっていた樹木なのです。

秋の味覚として筆者が好むのは、クリ・カキ・マツタケの三点です。クリご飯、茶わん蒸し、クリきんとん、クリようかんなど菓子類の材料としてもよく使われ、中国では焼き栗にヨーロッパではマロングラッセなど代表的なお菓子があります。クリを粉にしたパンやクレープ、ケーキにニョッキなどや、鶏の中にクリを詰めたローストなどもあり、日本人だけでなく世界中で好まれている秋の味覚でしょう。

今年も例年のように岐阜県のクリをいただき、クリご飯を作りました。鬼皮をむいて渋皮をむいてと手間がかかりますが、この作業をしているときがクリとのかかわりを実感して楽しい時間になるのでしょう。鬼皮のむき方など毎年工夫していますが、今年はバター塗りの道具ですいすいと運んで楽しい時間でした。

童謡の「大きなクリの木の下で」を歌った人は多いでしょう。あれはイギリス民謡をもとにした童謡なのです。作詞者・作曲者はともに分かっていませんがアメリカではボーイスカウトで歌われているそうです。クリの木は、世界に広がり人類と共に繁栄した樹木なのでしょう。

丹波のクリは有名ですが、この地では江戸時代から大きな実を付けたクリの木の枝を接木した接木(つぎき)繁殖技術を取り入れてきました。丹波のクリは創意工夫の結晶だったのです。美味しさの陰に人々の努力があったことに感動します。丹波のクリの代表種は「銀寄(ぎんよせ)」と言われ、このクリを大阪で売って大もうけをしたそうで、当時のおカネの銀札を寄せたということからこの名がついたということです。

国の天然記念物に指定されているクリの自生地が四か所あります。カズグリ自生地(岩手県花巻市)、小野のシダレグリ自生地(長野県辰野町)、西内のシダレグリ自生地(長野県上田市)、竹原のシダレグリ自生地(岐阜県下呂市)です。シダレグリはクリの原種のようでもあり、実は小さくて食用にはならないそうです。昔から天狗が管理していたクリ林として恐れられ、人々が近づかなかったという言い伝えが残っています。

クリの花言葉は「満足」「豪奢」とされています。花言葉とは植物と言葉を組み合わせて象徴的に呼ぶもので、誰でも知っているのはオリーブは「平和」であり月桂冠は「栄光」でありバラは「愛情」という具合です。クリは「満足」「豪奢」ということですからこの上ない花言葉です。人類が最も敬愛してきた樹木とその実であることがこれでも分かります。

 

文:ばば れんせい  絵:みねしま ともこ

 

 

栗の生産量の都道府県ランキング(平成29年)

順位 都道府県 収穫量 割合
01位 茨城県 4,150t 22.20%
02位 熊本県 2,880t 15.40%
03位 愛媛県 1,840t 9.80%
04位 岐阜県 810t 4.30%
05位 埼玉県 657t 3.50%
06位 宮崎県 594t 3.20%
07位 山口県 571t 3.10%
08位 長野県 530t 2.80%
09位 兵庫県 493t 2.60%
10位 栃木県 486t 2.60%
11位 神奈川県 369t 2.00%
12位 千葉県 366t 2.00%
13位 大分県 354t 1.90%
14位 静岡県 345t 1.80%
15位 東京都 323t 1.70%
16位 岡山県 315t 1.70%
17位 京都府 296t 1.60%
18位 福岡県 260t 1.40%
19位 秋田県 164t 0.90%
20位 石川県 121t 0.60%
21位 大阪府 104t 0.60%
22位 島根県 61t 0.30%
23位 香川県 32t 0.20%
北海道
青森県
岩手県
宮城県
山形県
福島県
群馬県
新潟県
富山県
福井県
山梨県
愛知県
三重県
滋賀県
奈良県
和歌山県
鳥取県
広島県
徳島県
高知県
佐賀県
長崎県
鹿児島県
沖縄県

出典:地域の入れ物 https://region-case.com/rank-h29-product-chestnut/