イナゴとハチの子
NO.86
食糧難を救う昆虫食
最近、昆虫食がブールになり、昆虫マーケットという言葉まで出てきました。ネット情報によるとイナゴ、タガメ、コオロギ、バッタ、ハチノコ、カイコなどを食料にするために、飼育業者も出現しているそうです。人口増大でいずれ世界は食糧難に陥ると言われていますが、それを救うのは昆虫食だと言います。
食糧難と聞いて思い当たったのは、イナゴでした。日本は太平洋戦争に負け、毎日食べるものにも事欠き、庭や道路わきを耕して野菜を植えて自給自足する生活に追い込まれました。そのころ、貴重なたんぱく源になったのがイナゴだったのです。確かにあの当時、日本の食糧難を救ったのでした。
学校の資金稼ぎでイナゴとり
都会生活の子どもたちは、イナゴを見たことがないかもしれません。昆虫のバッタの一種ですから、こんなものを食べるというと、びっくりするでしょう。イナゴの佃煮は、今でもデパートで売っていますから、筆者もときどき購入してはビールのおつまみに食べています。やはり郷愁をそそる食べ物なのです。
骨ばった足を噛んだときに、かりりと香ばしい感じがして、子どものころが蘇ってきます。戦後の食糧難の時代に育った筆者は、稲の収穫期の秋になると、イナゴとりが楽しみのひとつでもありました。イナゴとりは学校の行事であり、とったイナゴは砂糖と醤油の甘露煮にして食べるのが楽しみだったのです。
イナゴとりの道具は、長さ5センチほどの竹筒を入り口で縛った布の袋でした。とったイナゴをこの竹筒から入れて、布袋に貯めていきます。イナゴはもちろん素手で捕まえるのです。
イネの刈り入れが終わった田んぼのあちこちに、束にしたイネが立てかけてありました。その周辺には、イネを食べるイナゴがわんさといます。左手にイナゴ袋、右手でイナゴを追って捕まえるのですが、一匹や二匹ではありません。次々と片手で捕まえ、多分、五匹や六匹つかまえては袋に入れたと記憶しています。追いかけてはつかまえ、竹筒を通して布袋へと貯めていくと、一時間もすると満杯になります。学校行事のイナゴとりの収穫は、佃煮業者にイナゴを売って学校の備品購入費に充てていました。
イナゴのつくだ煮は郷土料理だった
年配者にイナゴ料理を聞いてみると、とったイナゴは一晩いかして脱糞させたそうです。シジミやアサリの砂抜きと同じ理屈でしょうか。それから茹で上げて佃煮にして食べていたということです。
イナゴは貴重なたんぱく質源でした。長野、山梨県などでは、イナゴの佃煮は昔から郷土料理になっていました。農薬が使われるようになってからイナゴは減少しましたが、それでもイナゴの佃煮は今でも作られています。
イナゴと同じように貴重なタンパク質源として郷土料理になっているのがハチノコです。ハチの子はスズメバチなどの巣の中にいる幼虫やサナギのことを総称して言い、さまざまな料理法がいまなお受け継がれています。
栄養満点のハチノコ料理
そのころ、ハタラキバチの幼虫であるハチノコもよく栄養補給に食べました。
イナゴのように甘辛く佃煮にしたり、炊き込みご飯にする料理法もあります。スズメバチの成虫をそのまま焼酎につけたり、蜂蜜につけたりするところもありました。
ハタラキバチの行方を追いかけていき、巣のあり場所を発見してとったそうです。巣は皿をひっくり返したような形になっており、五段、六段と重なっています。ハチノコをハシなどでつまみ出してとるのです。焼く、炒める、フライにする、佃煮にする、炊き込みご飯にする、煎じる、生食するといったように、非常にバラエティに富んでいるのもハチノコ料理です。
ハチノコの栄養価は、ローヤルゼリーの数10倍と言われています。タンパク質も脂質もミネラル分も豊富であり、バランスのいい各種アミノ酸を含んでいます。古来から漢方にも使用されており、血行を良くして疲労回復、老化防止に効くとされています。難聴、耳鳴り、めまい、貧血防止にもいいということです。
昆虫食のメリット・デメリット
昆虫食が食糧危機を救うというメリットは、栄養価が高く、生産や加工がしやすく、環境負荷がかからないということです。逆にデメリットは、食べず嫌いになりやすく、簡単には入手できないことなどがあげられています。
筆者の身辺にも聞いてみると、昆虫はキモイから食べられないという女性がかなりいます。しかし、昆虫専門の通販が出てきたり、レストランも出現というのにはびっくりです。
昆虫食のお菓子もあるし居酒屋でも昆虫食を楽しめるところがあるということですから、調理法も開発され「市民権」を得るところまで来たようです。
文:ばばれんせい 絵:すなみゆか
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