食のこばなし

アワビ

NO.81

一晩で85メートル移動する

アワビをバターで焼いてスライスした逸品は、高価でありぜいたくな食べ物です。あのしこしこした食感、磯の風味を楽しみながら噛みしめる時間がたまらないのです。

アワビはミミガイ科の巻貝の総称で、世界中で約100種類知られています。日本で水産上重要なアワビは、クロアワビ(寒冷地方型はエゾアワビ)、メガイアワビ、マダカアワビ、トコブシなどです。

この中でも刺身にするならクロアワビです。海底で海藻を食べていますが、はって移動するのが早く、一晩で85メートルを移動した記録があるそうです。

日本では、北海道、東北地方、房総半島以南に多く生息しています。世界で大型アワビが獲れるところは、北アメリカ西岸、アフリカ南部及びオーストラリアに限られ、地中海などでは小型のトコブシ類しか獲れません。

「磯のアワビの片思い」と言われるように、アサリやシジミのような二枚貝ではなく、蓋に相当する貝殻がなく片方だけになっているので、こう呼ぶようです。殻の外側はフジツボや海藻などの生物が付着して、殻の頂上部分は巻いています。昆布、ワカメなどの藻類やその落ち葉を食べており、主に夜間に移動します。内側に光が当たると虹色の真珠光沢があります。

生産量を増やすために稚貝放流

昔は「海のシラミ」といわれたくらいで、いくら獲ってもシラミのように湧いて出たということです。シラミを知らない世代もいると思いますが、シラミは人畜の血を吸う害虫であり、戦後、頭髪に巣食うアタマジラミが爆発的にはやり、大変な騒ぎでした。ゴマ粒ほどのサイズであり、6本の脚を持っていました。その流行にたとえたものです。

しかしその後、急速に漁獲高が減ってしまい、農水省の調べでは1970年に6466トンもあった全国のアワビの生産量は、2019年には829トンに激減してしまったということです。

アワビ獲りは一度失敗すると粘着力が強くなり、取りづらくなります。また岩と模様が似ているので見つけにくいのも特徴です。最近は、人口採苗による稚貝の育成が盛んに行われています。アワビ類は県により禁漁期間や殻長制限を設置して、資源保護が行われています。

高価なだけに密漁も絶えません。漁港では密漁監視のために巡回をしているところが多いようです。全国どこでもアワビ種苗放流や増殖場造成を行い、毎年アワビの稚貝を放流して生産量を増やす対策をとっています。

 

栄養豊富な高級貝

地味あふれる味わいはグルタミン酸、タウリン、ベタインなどです。コレステロールの増加を抑制、肝臓の解毒作用を補助、視力回復に役立つタウリンの含有量は魚介類の中ではトップクラスです。

また髪や皮膚の新陳代謝を活発にするコラーゲンに富んでおり、皮膚機能維持、改善が期待できます。

ビタミンB1、B2、鉄、亜鉛、銅などのミネラル分も豊富です。アワビは乾燥させることにより、カルシウムが増加して通常の4倍にもなります。

干しアワビは必須脂肪酸のアラキドン酸を含み、神経・免疫・生殖機能のバランスを維持します。

旬は晩春からです。アワビの餌である海藻が豊富になる夏はアワビもおいしくなります。クロアワビは刺身で食べ、メガイアワビは柔らかいので煮物、酒蒸しなどにあっており、磯焼きにするとこのほか風味が増すそうです。

国内産の干しアワビは旨味成分が凝縮され、高級中華素材として香港、中国などへも輸出されています。中華料理の高級食材「4大海味」とはナマコ、アワビ、フカヒレ、魚の浮き袋ですが、ゆでて干した乾鮑(ガンバオ)は大変高価なものです。

 

慶事のシンボル熨斗鮑(のしアワビ)

アワビは、秦の始皇帝にまつわる不老長寿の伝説もあり、サプリメントにも使われます。貝殻を使った加工品、装飾品にも利用されます。現在の真珠はアコヤガイ真珠養殖ですが、以前はアワビの貝の内部に形成される天然真珠が、日本の真珠産業であったといわれています。

熨斗(のし)の由来は、熨斗鮑(のしあわび)からきています。アワビをリンゴの皮をむくように薄く切って乾燥させたものを、慶びごとが長く伸びるようにとの願いをこめて、祝い事に配られました。これが熨斗の始まりであり慶事のシンボルでした。伊勢神宮での神事に縁起物として進物に熨斗鮑を添付するのが正式なならわしでした。現在は次第に簡略化され、熨斗紙として印刷したものを使うようになったのです。

文:ばばれんせい 絵:とよだゆき

あわびの食品成分

 

出典:食品成分データベース

 

あわびの漁獲量の都道府県ランキング(令和3年

順位
都道府県
漁獲量
割合
1 岩手県 90t 13.7
2 北海道 74t 11.2
2 宮城県 74t 11.2
4 千葉県 69t 10.5
5 愛媛県 40t 6.1
5 福岡県 40t 6.1
7 山口県 34t 5.2
8 三重県 22t 3.3
9 徳島県 21t 3.2
10 島根県 19t 2.9
11 長崎県 18t 2.7
12 青森県 16t 2.4
13 茨城県 15t 2.3
13 兵庫県 15t 2.3
13 大分県 15t 2.3
16 福井県 13t 2
17 新潟県 12t 1.8
17 静岡県 12t 1.8
19 京都府 10t 1.5
20 佐賀県 9t 1.4
21 秋田県 6t 0.9
21 鳥取県 6t 0.9
23 神奈川県 5t 0.8
23 石川県 5t 0.8
25 和歌山県 4t 0.6
26 山形県 3t 0.5
27 福島県 2t 0.3
27 富山県 2t 0.3
27 愛知県 2t 0.3
27 広島県 2t 0.3
27 熊本県 2t 0.3
32 東京都 1t 0.2
32 香川県 1t 0.2
32 宮崎県 1t 0.2
35 大阪府 0t 0
35 岡山県 0t 0
35 高知県 0t 0
35 鹿児島県 0t 0

出典:地域のいれもの

 

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