食のこばなし

アズキ

NO.87

お祝い事の定番

アズキほど日本の食文化に深く関与してきた野菜は、ないのではないでしょうか。お正月、入学祝、婚礼などおめでたいときのお赤飯は、日本文化の定番です。赤いものは縁起のいいもの。紅白のもちや饅頭。いずれもお祝いごとの出し物や引き出物の定番です。

その主役の位置にあるのがアズキです。大豆に対して「しょうず」とも呼ばれています。不作の年には穀物相場で暴騰したこともあり、そのときは「赤いダイヤ」とも言われました。

しかしアズキは、すべて赤いというわけではありません。赤、赤紫、赤茶など赤系統が多いのですが、ほかにも黄白色、白アズキ、黒、緑、褐、灰色など様々な色があます。こうした色の中に斑紋がある種類もあって、「アズキファミリー」の多彩さにはびっくりします。

アズキの赤い色に、日本人は特別な効果を期待したようです。平安朝には早くも小正月にはアズキがゆを作って神にお供えする風習が出てきました。今でも1月15日には、アズキがゆを作って食べる習慣が残っています。

アズキと白米を混ぜて炊いたおかゆですが、さくらがゆ、もちがゆなどとも言われています。もちがゆとは、望(もち)の日(陰暦15日の満月)の行事であり、望粥(もちがゆ)となったものです。

江戸時代から、お祝いに赤飯を炊く風習が定着していきます。また日本海地方では、元旦にアズキ雑煮で祝うところがあります。仙台地方では、お正月はあんこもちとお雑煮が定番でした。あんこもちの餡(あん)はもちろんアズキです。こしあんを作るのが、ぜいたくのあかしでもありました。

古くは5世紀から栽培された

アズキの主成分は糖質とたんぱく質ですが、糖質をエネルギーに変える働きのあるビタミンB1、B2が豊富なことも特徴です。カルシウム、リン、鉄、カリウムなどもかなり含まれています。外皮には咳を止めると言われるサポニンという成分や食物繊維があって、肝臓病や心臓病にもいいし、二日酔いや便秘解消にも役立つそうです。

漢方では、赤い色は心臓の機能を高めるものとされています。またアズキは抗酸化を活性化させる機能が高いようです。老化やがんの遠因とも言われる酸化を予防するのでしょうか。最近はこの作用に注目が集まっています。

アズキの原産地は定説がないようですが、有力説は中国西南部からインド、ミャンマーあたりではないかと言われています。この辺には野生種のアズキが生息しており、人類が栽培するようになってから品種改良を重ねて今日のアズキになったのではないかと推測されています。

アズキ栽培の記録は、5世紀に書かれた世界最古の農業書といわれている「斉民要術」という書物に、栽培法が書かれているということです。

日本では、静岡県の登呂遺跡や山口県の天王遺跡など弥生時代の遺跡からアズキが出土しています。このころから栽培されてきたようですが、大陸との交易によって運ばれてきたものという説もあります。

コピーに気を付けて!

アズキの産地は世界的に見ると東南アジアが主産地ですが世界に広がっています。最近はアルゼンチンやコンゴなどでも栽培されるようになってきました。

日本では全生産量の75%は北海道であり東北地方が続いています。国内生産だけでは足りないため中国などから輸入しています。日本で品種改良したものが中国に持ち込まれ、中国で生産したものが輸入されているケースもあります。

たとえば北海道で生まれた「きたのおとめ」というアズキの新製品は、中国産にも同じものがあって輸入され、流通していました。道立中央試験場でDNA鑑定したところ、中国のアズキは道内産の種子を持ち出して栽培した「コピーアズキ」と断定しました。

政府は種苗法の一部を改正し、こうした違法なアズキだけでなく、加工したあんの輸入も水際で阻止することを可能にしました。韓国から輸入されるイチゴの「とちおとめ」でも同じようなコピーが出回っており、取締りの対象になっています。

日本の生産者が手塩にかけて新品種を改良すると、心ない業者が中国や韓国に持ち出して栽培させ、生産物を日本に持ち込む。これは工業製品の知的財産権の侵害と同じことです。日本の農業に大打撃を与える違法行為ですから、このような生産物や加工品を知った場合は、まず消費者が拒絶して取り締まりの対象にしてもらいたいものです。

安ければいいという価値判断では、いいものが日本から出ることはなくなり、やがて日本の食文化の衰退につながっていくでしょう。

文:ばばれんせい 絵:すなみゆか

順位 都道府県 生産量 割合
1 北海道 39,300t 93.3
2 京都府 330t 0.8
3 滋賀県 159t 0.4

出典:地域の入れ物

 

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