ちくわ
NO.94
たんぱく源の貴重な食べ物だった
年齢を重ねても、ちくわを見ると貧乏だった子ども時代を思い出します。筆者の幼少期は、ちくわが最大のご馳走であり、ちくわばかり食べさせられた思い出があります。しかし今考えてみると、タンパク質の食物が不足していた時代、ちくわは重要なたんぱく源だったのです。
ちくわは魚肉のすり身を竹などの棒に巻き付けて焼いたり蒸したりしたものです。棒を抜くと筒状になって竹の切り口に似ているので、ちくわ(竹輪)となったものです。
お弁当のおかずは、あっちでもこっちでもちくわばかりでした。どこの家でもちくわが、弁当のおかずに最適だったのです。それだけ安く手軽に入手できる食べ物だったのでしょう。お弁当のふたを開けると、ドーナッツ状の形をしたちくわが並んでいました。
成長してからは、ちくわは子供時代を思い出させる食べ物になったのです。代表的なのがおでんのちくわです。よく炊きこんで味が染み、ふんわりと柔らかくなったちくわは絶品です。からしをちょっとつけて熱々をほうばるときの幸福感は、何事にもたとえようがないものです。
原料は白身魚が多い
ちくわになる材料は、スケトウダラ、トビウオ、サメ、ホッケなどの比較的淡泊な味の魚です。白身魚を原料とするだけに低脂肪、高たんぱく質の健康的な食べ物なのです。この魚肉のすり身に塩、砂糖、でんぷん、卵白を混ぜ合わせて練りこみ、串に丸く塗りつけて焼くのです。
表面に薄く焦げ目がついているちくわがほとんどであり、焼いたものが多いようですが、蒸すこともあります。蒸しちくわと呼ばれたり、白ちくわとも呼ばれることもあります。
地方独自のちくわ
ちくわは地方によってそれぞれ製造法や材料に工夫をしているようで、全国どこへ行ってもその地方名産のちくわがあります。
鳥取県の名産「あご」は、あご(トビウオ)100パーセントで作られた高級ちくわです。ビタミンA、Eなどを含んだ魚油を添加した「ビタミンちくわ」があるそうです。エビをすり身に使った「エビちくわ」もあります。
徳島県には竹にすり身を巻きつけて焼いた「竹ちくわ」があります。本来なら竹を抜いてちくわになるのですが、竹を抜かないちくわなのです。長崎県にはすり身に豆腐を加えて作った豆腐ちくわがあります。
さまざまな料理に合う具の定番
ちくわの料理法は、おでんのほかに煮もの、野菜炒め、焼きそば、筑前煮、うどんの具などが定番です。
ちくわの穴にさまざまな材料を入れて楽しむこともできます。子どものころに遊んだのはキュウリを思い出させます。ほかにもチーズ、ソーセージ、辛子明太子、マヨネーズ、ツナなどがあり、このようなちくわをパンに挟んだものも見かけます。
男の料理教室で教えてもらったちくわの即席料理があります。材料はちくわとダイコンだけ。ダイコンを千切り風にきざみ、ちくわも縦半分に切ったものを細切りにします。まずごま油を使って強火のフライパンでダイコンをいためます。続いてちくわを入れていためます。しょう油、砂糖などで調味し、ピリ辛の好きな人は鷹の爪を少々。白ごまをふって出来上がり。しゃきっとしたダイコンにちくわの味がからんできてこれは美味しい。
室町時代からあったちくわ
ちくわの発祥は室町時代と言われており、古くから日本人の食卓にのぼっていました。最初は板つきかまぼこから始まり、ちくわはこの派生として独自のかまぼこになったようです。江戸時代は高級品として売られていました。ちなみにかまぼこは「蒲鉾」と書きますが、これは形状が蒲(がま)の葉に似ていたからついたということです。
ところで、おでんの中で筆者の大好物の一つにちくわぶがあります。ちくわのような形をしたお団子のような風味のある食べ物です。
小麦粉を原料にした麩の一種ということで、ちくわの形をしているので「ちくわ麩」と呼んでいます。味がしみ込んだちくわぶは、本当に美味しい。
おでんのタネで人気のあるはんぺんは、ちくわを縦に二つに切って平らにしたもので、「半片」と書いたことからこの呼び方になったようです。
文:ばばれんせい 絵:すなみゆか
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