おでん
NO.71
ご存じでしょうか「たまとうだい」
おでんを注文するとき「たまとうだい」という言葉を初めて聞いたのは、札幌の有名なおでん屋でした。ご存知でしょうか。卵・豆腐・ダイコンの3点セットを略してそういうのです。この三種類は、おでんの中でもっとも人気のあるねただそうです。
おでん大好きの筆者は、夏でもおでん屋さんに通います。好物は「たまとうだい」 のほかに、 つみれ、サトイモ、 コンプ、はんべん、ちくわぶ、ネギ間、ジャガイモ、こんにやくなどです。おでん屋さんに入ったときは、食べたいねたをいろいろ考えていますが、いざ食べ始めると思っているねたの半分程度しか食べられません。なぜか、おでんはすぐにおなかが一杯になるからです。だからダイエットにいいという人もいます。
古くは江戸時代から
おでんの言葉の由来は、「お田楽」の略からきたと言われるように、最初は田楽だったというのが通説です。江戸時代に宮中に仕えた女官たちが「お田楽」 のことを隠語で「おでん」と呼んでいたという説もあります。
江戸時代の初期、五代将軍・徳川綱吉がおさめていた1680〜1709年の30年間を元禄時代と呼びますが、そのころにこんにゃく田楽が現れました。田楽を焼いて味噌をつける味噌田楽から、やがて煮込み田楽へと発展します。こんにゃくに代わって豆腐田楽が出現するのは江戸中期以降と言われています。
幕末になると、薄味の醤油で煮込む煮込みおでんが江戸っ子の人気になったそうです。 (「たべもの起源事典」岡田哲編、東京堂出版)
筆者が大阪に出張で行くと、必ずといっていいほど寄るのが道頓堀の「たこ梅」 です。ここのおでんは甘辛の濃い口ですが、昔ながらのアルマイト皿にのって出てくるゴポ天、卵、サトイモなどの好物を真っ先に注文します。
名物はタコの甘露煮です。タコの軟らか煮ですが、噛むほどに独特のタコの味わいが口の中に広がってきます。お勧めしたいのはサエズリです。クジラの舌をこう呼びます。どのネタも濃い口のだし汁がしっとりとしみ込んでいて、いかにもおでんを味わうという感じになるのです。
たこ梅の創業は江戸後期の弘化元年 (1844年)といいますから、江戸で人気になった煮込みおでんを大阪に移入したのかもしれません。
東も西もそれぞれおいしい
明治時代になってから、田楽おでんは今のような汁気たっぷりのおでんになったそうで、「関東炊き」と 呼ばれるようになりました。塩と酒とみりんで薄味の関西炊きを、東京で売り物にしているおでん屋さんもあります。関東も関西もそれぞれ味わいがあって、どちらもおいしい。味噌おでんでは、しようが味噌、八丁味噌、からし味噌などもあります。
よく言われるのは、関東炊きは醤油味で濃い口であり、関西炊きはお澄まし汁で薄味と言いますが、たこ梅のおでんは甘辛濃い口ときていますし、地方によってそれぞれ独自のおでんを作っているようです。北海道のおでんは味噌おでんが主体で、こんにゃくやつぶ貝、さつま揚げなどの水炊きに味噌をかけて食べるものもありました。
おでんは、魚を材料とした練り物から多彩な野菜類まで栄養のバランスに富んだ料理であり、日本が生んだ独特の料理方法です。いわしのつみれを売り物にしているおでん屋さんが東京・銀座にあり、 その名も「銀座つみれ」。ここのいわしつみれは絶品です。
おでんは、 コンプや鰹のだし汁をべースに、練り製品と野菜類を煮込んだ煮物の一種であり、鍋料理とはまた違った日本の伝統的な料理になったのです。 調理に手間がかからないので、誰でもできる便利な料理でもあるのです。
中国でも人気
コンビニに入るとおでんの香りがするところがありますが、これが中国に飛び火したのか北京や上海でもコンビニおでんが大流行の時期がありました。串に刺したさまざまなネタを紙コップに入れてもらいますが、中国では朝食にこのおでんを食べている風景をよく見かけます。
出勤途中のOLが、コンビニでおでんを買って入り口近くの隅っこで食べていました。コンビニによっては、おでんを食べる空間をわざわざ作っているところも見かけました。コロナ禍で、このような風景はどうなったのか。そのうち中国に行って食文化の行方を確かめたいと思っています。
文:ばばれんせい 絵:みねしまともこ
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