第3回食育シンポジウム報告2
第3回食育シンポジウム~コロナ禍の学校給食から見えた課題を考える~ 報告2
基調講演のあと、パネリストの先生から現場の状況と対応について引き続き、報告がありましたので続行します。
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馬場 パネリストの方からのプレゼンテーションを続けていきます。亀ヶ谷昭子さん、よろしくお願いいたします。
亀ヶ谷 富山県高岡市立野村小学校、栄養教諭、亀ヶ谷昭子です。ウィズコロナ時代における学校給食の対応についてお話をさせていただきます。
手前は黒松で、樹齢約125年、向こうは赤松で、樹齢約250年の立派な松が本校の校庭にそびえています。この2本の松は約100年前に世界中でスペイン風邪が大流行し、当時の人たちがそのパンデミックを乗り越えてきたことを知っています。
この写真は、6月に学校が再開したときの給食です。
1週目は配膳時の感染リスクを減らすため、個包装のパンと牛乳、デザートやチーズなどがついた簡易給食でした。給食再開に向けて手洗い指導を始め、給食指導について教職員と共通理解を図りました。
2週目からはごはんが登場しました。おかず皿には野菜のおかずがありません。
1品減らした理由は、盛り付けの感染リスクを減らすためです。その代わりに具だくさんの汁物をつけて、栄養が取れるように工夫をしました。配膳時、給食当番は使い捨て手袋を使用し、盛り付けをします。
3週目からは、主食、主菜、副菜、汁物の給食に戻りました。給食の献立は、在庫品の使用や、急に休校になる場合を考慮して、食品ロスが出ないように、賞味期限の短い食品やキャンセルのできない品物は使わないように考えています。一方で、急に休校になったため、3月の給食に使う予定だった品物がたくさん残っていました。この献立は、本来ならば3月の卒業祝いに使う栗赤飯でした。本校では、子どもたちが新型コロナウイルスに負けずに頑張ったことと、学校再開のお祝いメニューとして6月に提供しました。
高岡市では10月末まで、給食時間には飛沫飛散防止のパネルを机の上に置いて給食を食べていました。マスクを外す食事中が一番感染リスクが高いので、絶対コロナに感染しないための対策です。みんな静かに食べています。パネルには、思い思いの絵が描かれています。
富山県では毎年9月に、毎日しっかり朝ごはん運動をおこなっています。今年の夏休みは短かったものの、規則正しい生活に早く戻るようにと学校と家庭が連携して、早寝早起きをしてしっかり朝ごはんを食べることに取り組んでいます。
今年のコロナ禍における新しい取組みについて、いくつか紹介します。
昨年までは朝ごはんをしっかり食べようと、桃太郎旗を持ち、大きな声で朝ごはんを呼びかけていました。今年度は朝ごはんの絵本を手渡して、朝ごはんの大切さを呼びかけました。
また昨年までは、給食委員会の児童が食育マンに扮して各クラスを訪問していましたが、今年度は給食委員が作成した朝ごはんのビデオを朝の会のときに全校で視聴しました。ビデオの視聴後は、指導内容と資料を担任に渡し、学年の発達段階に応じて指導してもらいました。
休校時に保護者向けに手軽にできるレシピを学校のホームページにアップしました。ホームページの活用状況をアンケートしたところ、レシピの内容を見た割合は、オレンジの箇所で示した約半数。そのうち、料理をつくった割合は、グリーンの箇所の4分の1でした。保護者に対して効果的に伝えるにはどうしたら良いか、今後さらに検討していきたいです。
このグラフは休校中の児童の朝ごはんの食事内容の結果です。ごはんやパン、麺などは黄の食品。肉や卵、魚や豆、豆製品は赤の食品。野菜や果物は緑の食品に分けて、いくつの色の食品を食べていたかを調べました。5年生が他の学年よりも1食しか食べていないオレンジ色の部分が多いことがわかりました。アンケートの結果をデータで示すことにより、担任にも朝ごはんの指導の日露お生を理解してもらうことができました。そして、学習参観では朝ごはんの授業をおこない、保護者と一緒に朝ごはんのあり方について考える良い機会を持つことができました。
休校中の子どもたちの昼食の状況です。オレンジ色が食べなかった児童の割合を示しています。学校給食があるときは、赤、黄、緑の食品を3食とも全部食べているのですが、黄の食品は34人の6パーセント。赤の食品は16パーセント。緑の食品は162人の26パーセントの児童が食べていませんでした。
休校中に1日に1回以上牛乳を飲んだ児童は、グリーンの箇所の217人で、わずか36パーセントしかいませんでした。また、飲まなかった児童は赤の箇所の197人で、32パーセントもいました。もっと野菜を食べることや、牛乳を飲むことなど、日頃から赤、黄、緑のバランスの取れた食事の必要性を伝えていくことが大切だとわかりました。
コロナ禍における保護者の困りごとについてのアンケートの結果です。第1位は、献立を考えることでした。次に、食事の内容がワンパターン、栄養のバランスと続きました。保護者の困りごとを知ることで、今後栄養教諭としてどのような働きかけをすれば良いかのヒントになり、家庭と連携した取組みが進めていきたいと思います。
これは豆たろうといい、先輩の栄養教諭から教えてもらって、後輩にも伝えている指人形です。子どもたちがちょっと苦手な豆料理が給食に出るときに、一緒に教室に連れていきます。豆太郎が来たら頑張って豆を食べてくれます。
ただ、今年はコロナの関係で、豆たろうも私も教室に行ってお話しすることができません。子どもたちは「いつになったら来てくれるの?」「豆たろうにマスクをして教室に来たらいいよ」とかわいいことを言ってくれます。本当に、いつになったら豆たろうが給食時間に登場することができるのでしょうか。
馬場 ありがとうございました。コロナ禍での保護者の悩みから豆たろうの悩みまで盛りだくさんの内容でした。それでは続きまして、菊池麻友さん、よろしくお願いいたします。
菊池 岩手県立気仙光陵支援学校、栄養教諭の菊池です。
本日は特別支援学校ってどんな学校なの? 特別支援学校の給食って普通の学校とどんなところが違うの?というところにも触れながら、発表してまいりたいと思います。
本校の概要です。赤星印のところ、岩手県大船渡市に位置しております。在学する児童生徒は大船渡市以外にも、陸前高田市、釜石市などの広い範囲から通っております。ダウン症候群、自閉症など、様々な障害を持つ児童生徒がおります。
本校の給食についてです。広い範囲から通って来る生徒がいるため、寄宿舎が学校に併設されております。そのため、お昼のみの給食ではなく、朝昼夜の食事とおやつを提供しています。また、児童生徒の実態に応じて、普通食を含めた5形態の食事を提供しています。給食に関する職員体制についてはスライドのとおりです。
栄養教諭の役割についてもスライドのとおりです。
本校の給食の特徴は、児童生徒の実態に応じた特別食を提供しているという点です。写真のとおり、普通食を含めて五つの形態の食事を提供しております。
離乳食をイメージしていただくとわかりやすいと思います。やわらかく煮たり、ミキサーをかけたり、ハサミでカットしたり、骨を取り除いたりなど、一人一人の実態に応じた食事の提供をおこなっています。
日々の特別食づくりの中でさらに望ましい食形態につなげられるように、「特別食フィード記録」の実施による連携をおこなっております。食べ物の固さや大きさ、とろみ加減に関する記録を、摂食指導担当の先生に記入していただき、栄養教諭と調理員がそれを参考にしながら日々の特別食に反映しております。
「特別食フィード記録」の他にも、日々の給食づくりに関する共通理解や食育指導の充実を目的とした「食育シート」というものを活用しております。先生方からの給食に関するご意見や児童生徒の給食時間の様子を記入していただきながら、日々の給食づくりに反映させております。
本校の健康に関する取組みについてです。こちらは令和元年の岩手県と全国の肥満傾向児の出現率を比較したグラフで、青が岩手県、赤が全国の肥満傾向児の割合です。ご覧のとおり、岩手県はどの学年を見ても肥満が多く、しかも10人に1人が肥満になっているというデータがあります。
こちらは本校の肥満度の割合に関するグラフです。青が標準、その他は肥満傾向児となっております。
なんと、本校に在籍する児童生徒の3人に1人は肥満傾向にあるということが本校の課題でもあります。
そこで、本校では、肥満改善に向けた様々な食育に取り組んでおります。肥満予防に効果のある、よく噛むをテーマにしたリクエスト給食の、「献立を選ぼう」という学習を行いました。
こちらは、野菜をもっと好きになってほしいという願いを込めて、「夏野菜を食べよう」をテーマとしたリクエスト給食の学習を行った時の様子です。
こちらは昨年度の写真ですが、寄宿舎で毎日を過ごす生徒が、学校を卒業して自立して生活することになったときにも望ましい食生活を送ってほしいということから、寄宿舎生への健康講座もあります。
次は、給食時間におけるコロナ対応の紹介です。
本校は寄宿舎内に食堂が設置されており、以前は給食の時間になると全校生徒が一斉に食堂へ来て食事をしておりました。コロナ対策により、各学部の給食時間をずらし、人と人とが向かい合わせにならないように座席を変更。距離を保って後片付けをすることで密を避ける対応をおこなっております。食事後は職員が食堂全体を消毒しております。このような様々なコロナ対応は、保健主事が中心となり体制づくりをおこなっていただきました。
コロナ対応による本校の課題としては、①児童生徒への食指導の不足、②職員や調理員の負担が増加、ということがあげられました。栄養教諭としても、給食時間の児童生徒の様子を観察し、声掛けをおこないたいところですが、そのようなコミュニケーションが取りづらい状況であることが残念です。
そこで課題解決に向けて、消毒方法の変更をすることや、食事の席を確保することにより、負担軽減のための工夫をしながら日々の給食づくりをおこなっております。
コロナ禍をたくましく生きる子どもたちのとてもすてきな笑顔を守るためにも、安心安全でおいしい給食づくりに努力していきたいと思います。ご清聴ありがとうございました。
馬場 ありがとうございました。支援学校の特殊性と対応する先生方の奮闘を垣間見せる内容がよく語られておりました。それでは、次に宮川伊津子さん。よろしくお願いいたします
宮川 長野県ローカルの放送局、信越放送の宮川です。信越放送は、ローカルではあるのですが、けっこう自社制作率が多く、たくさんの番組をつくっております。
私自身は、1時間枠のSBCスペシャルというものや、企業を紹介する番組、また子ども向けの番組等をつくるディレクターです。
去年12月なのですが、長野県の南側にあります伊那市というところの、学校給食を扱った番組をつくりました。今映像を流していますが、こちらは自校給食で、栄養教諭の原真理子さんが食事にもメニューにも工夫をされ、「学校給食甲子園」で決勝にまで進出する奮闘を追いかけた番組となっています。この番組は、日本民間放送連盟賞特別表彰部門青少年向け番組というカテゴリで2020年に優秀賞を受賞いたしまして、11月10日に表彰されました。本当はそのトロフィーとかがここにあって、「これです」と言えると良かったのですが、社長室に持っていかれてしまいました。ちょっと映像の音声を上げていただいて、こちらを少しご覧いただければと思います。
宮川 長谷中学校では、生徒たちが一年中畑で野菜をつくっていまして、栄養教諭の原さんが、毎朝畑に行って収穫をして給食をつくることも多くありました。昔、この地域では、農家の女性たちが「麦わら帽子の会」というのをつくっていて、地元の野菜を子どもたちにぜひ食べてほしいということで、給食に野菜を提供する活動をしていたんです。ところが高齢化で会が解散してしまいまして、地元の野菜が学校給食にまったく提供されなくなってしまいました。それと同時に、畑を使わなくなってしまうと、遊休農地の耕作放棄地が増えてしまって、畑が荒れてしまう状態になってしまいました。このままでは地区全体が駄目になってしまうということで、前の校長先生と原さんなども協力して、「総合の学習」として子どもたちに野菜をつくらせ、それを学校給食に使うという取組みを始めたんです。子どもたちがこんなに頑張っているんだから、地元の方たちも協力してよ、というふうに呼びかけて、また学校に地元の野菜が集まるようになりました。
その様子をずっと追いかけて、去年の学校給食甲子園の決勝にも原先生の献立が最終審査にまで残り、決勝で実際に披露をして、最終的にはたくさん賞をいただいた。その経過を1時間の番組としてまとめて、放送されました。
番組をつくって思いましたのは、地産地消とか、旬のものを旬のときにとかよく言われるのですが、それを学校給食でそのまま実践できる学校が、日本の中にどれくらいあるのかということ。
そして、この学校は、残飯といわれるものがほぼ出ていませんでした。それは子どもたちが、この野菜は自分たちがつくったものとか、顔が見えるお年寄りの皆さんがつくったものだという感謝の気持ちがあって、残す子供がいないんだと、とても強く感じました。
また、子どもたちが給食の野菜をつくるという「総合の学習」の活動が地域を動かして、地域の方たちからも野菜が集まってくる。小さな学校だからこそできることだとも思いますが、この小さな取組みが、例えば同じような少子高齢化や、過疎に悩む地域のお手本になるといいなと思った次第です。
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新型コロナウイルスの影響については、やはり春先休校が続いたために、給食に食材を卸している業者の皆さんに多く痛手が出たという話題をニュースでは取り上げました。パン工場や、牛乳の組合などを取材して報道しました。
この映像は給食にパンを卸している工場ですが、ほぼ仕事がなくて、材料は余っているんだけど、これをどういうふうに使えばいいか悩んでいるという内容の報道でした。学校が始まった直後は、給食が再開しても、配膳が楽で感染防止を一番に考えたメニューが出されているということが報道されました。
ただ、現在なかなか学校の現場に報道が入れないということもあって、給食自体がどうなっているのかについても、こうしてお話を聞いてみないとわからないところがあります。今日は皆さんのお話を存分に聞いて、報道に生かしたいと思っております。以上です。
馬場 ありがとうございました。ビデオの声と宮川さんのしゃべりとが錯綜するところがありましたが、またご意見を伺いたいと思います。
ここまでに基調講演と5人のパネリストの報告がありました。コロナ禍というかつて経験したことがない災難の中で、学校現場が様々な課題を克服しながら創意工夫で乗り越えようとしている様子がよく分かりました。学校給食と食育という生活習慣にも及ぶ重要な教育活動を先生方は精いっぱい頑張っているのですが、コロナ禍の中で悩みも深く広がっていくこともあると思います。
ここからは、それぞれの立場から課題と教訓を提起したり、悩みを語り合いながら率直に意見を述べあう場にしたいと思います。