あなたの誕生樹

あなたの誕生樹NO.9

奈良八重桜

4月9日

奈良時代から花の美しさは有名で、平安時代の一條天皇は京都の宮中に奈良・興福寺境内の八重桜の移植を希望されるのですが、興福寺の僧侶の反対に合いそれが叶わなかったということです。せめてもの花の一枝が届けられた時,その受け取り役の伊勢大輔が「古の奈良の都の八重桜今日九重に匂いぬるかな」と歌ったといいます。

この歌は小倉百人一首にも載っていて有名だったのですが、“古の奈良の都の八重桜”は久しく姿を見せることがなかったとのことです。しかし、大正11(1922)年、桜博士として有名な三好学博士が東大寺知足院の藪の中で発見し、Prunus antique (古代桜)と命名したそうです。私もこの知足院の辺りを探し回ったのですが、このお寺には入れず遠くから望遠レンズで写真を撮ったことを思い出します。

ヤマザクラの変種ですが実生で育てた子孫はほとんどヤマザクラに先祖帰りをし、また繁殖力が弱く、移植が難しいということです。こうしたことから、昔、興福寺の僧侶が反対したのかもしれません。ちなみに、興福寺は一條天皇に反対する一方で、桜を伊賀の国に預けたことからこの伊賀の生まれでもある俳人・芭蕉は「一里はみな花もりの子孫かや」という句を残しています。

その後、植木の技術も向上して、知足院の原木から“接ぎ木”で増やされ、今では、奈良公園辺りにはたくさんの奈良八重桜が植えられていています。花の時期は割と遅くゴールデンウィーク頃が見頃で、赤い蕾と薄いピンク色の八重の花の取り合わせが良い感じです。当然のことながら、奈良県と奈良市の花に指定されています。

文:椋 周二