食のこばなし

サクランボ

NO.4

 箱入り娘のようにか弱い
 くちびるに 触れてつぶらや さくらんぼ  日野草城
 ルビー色をした上品で可憐な姿のサクランボは、過保護と言われるほど手間をかけて大事に育てられる「箱入り娘」です。
 サクランボはよく冷やすと酸味がおさえられて、甘味が引き立ちます。冷蔵庫で冷やしたサクランボを氷水の入ったガラスの器に盛ると、見るからに涼しげ、初夏の風物詩になっています。食べ始めると止まらなくなるのもサクランボです。
 サクランボは、明治維新と共に外国から入ってきた外来種の果物です。バラ科の落葉高木で、原産地は西アジアのトルコ周辺と言われています。明治9年に入ってきたサクランボの苗木は、全国各地に配布され栽培されるようになりました。
 ところがどの地域でもうまく育ちません。サクランボは、霜に弱く特に4月から5月にかけて降る晩霜にめっぽう弱く、雨にも弱い。さらにムクドリ、スズメ、カラスはサクランボが大好きときているので食べられてしまう。ミバエやハダニなどの害虫にも弱く、実が腐る灰星病にも弱い。
 まるでガラス細工のように、こんなにひ弱な果物は、ほかにありません。そんなことがあって、サクランボがうまく育ったのは山形県だけでした。山形県は霜害が少なく、台風の被害もなかったからです。山形県はいまや全国のサクランボ生産の70%以上を占めるようになっています。山形県とサクランボの深い関係は、このときから始まったのです。

 

創意工夫で生まれた佐藤錦
 しかしその山形県でも、最初は美味しいサクランボではありませんでした。「日の出」「珊瑚」「若紫」などの種類を栽培していましたが、甘味はそれほどではなく、日持ちも悪くてせっかく収獲したのに、消費地に運ぶ途中で腐ってしまうということが後を絶ちませんでした。
 明治41年、東根市で醤油醸造をしていた佐藤栄助は、株の投資に失敗して家業を廃業し、果樹園の経営を始めました。政府からサクランボの苗木を買い取り、栽培をしていましたが、そのころ栄助の土地にも鉄道が開通したため、サクランボを列車で東京方面に出荷できないかと考えました。
 当時のサクランボは、甘くて果肉が柔らかいが保存がきかない「黄玉」か、酸味は多いが果肉が硬くて日持ちがする「ナポレオン」が主流でした。そこで栄助は、黄玉とナポレオンをかけ合わせ、甘くて日持ちのするサクランボに品種改良しようと試みたのです。
 交配と育成を繰り返しているうち、ついに大正11年に目的の新品種の作成に成功し、自分の名をとって「佐藤錦」と命名しました。この新品種は苗木商の岡田東作によって広げられました。見た目も鮮紅色で光沢があり、甘味もあって果皮が厚いので遠地輸送にも耐えられるということから、佐藤錦はたちまちスターの座を占めるようになったのです。いまでは、山方県内で栽培されるサクランボの60%以上は佐藤錦が占めています。

 栽培には大変苦労する
 サクランボの甘味はもちろんブドウ糖です。酸味はリンゴ酸、酒石酸、コハク酸などであり、ビタミンAの元であるカロチンを多く含みます。また気管支炎に効く消炎作用もあると言われており、利尿作用もあるようです。
 サクランボは、雨が降ると実が割れてしまうので、どこの栽培農家でもパイプハウスで覆いを作り、しかも鳥に食べられないようにサイドにはネットを張ります。しかしこれでは太陽の光が思うように実に届きません。太陽光があたらないとサクランボは赤く色づきません。
 そこで収穫期が近づくと、太陽光を邪魔する葉を切ったり、地面に銀色の反射シートをはって、太陽光を地面から反射させています。
 名作「斜陽」で知られる作家、太宰治は「桜桃」という作品を残しました。これにちなんで、太宰の忌日である6月13日には菩提寺の禅林寺で「桜桃忌」が行われ、いまでも太宰ファンが集まってきます。 
 桜桃はサクランボの学術用語です。サクランボの加工品や輸入品はチェリーと呼ばれますが、桜桃もチェリーもみんなサクランボを指しているのです。

 文:ばばれんせい 絵:みねしまともこ

  

μg(マイクログラム)Iu(インターナショナルユニット)

(kcal)  蛋白質 脂質      炭水化物       カルシウム  リン   鉄
   54   1.0g   0.2g  糖質13.2mg 繊維 0.3mg  1.3mg  17mg  0.3g

ナトリウム  カリウム   ビタミンA       B1    B2   ナイアシン  C
1mg    210mg  カロチン42μg A効力23Iu 0.03mg  0.03mg 0.2mg   10mg

(可食部100gあたり)

さくらんぼの生産量(収穫量、2018年)

順位
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14

16

18
19






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鹿児島県
沖縄県
収穫量(t)
14,500
1,430
1,190
605
364
337
278
118
104
29
25
10
7
5
5
3
3
2
1
1
1
1
1
1
1
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
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0
0
0

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