冷やし中華
NO.33
冷やし中華
「 冷やし中華、はじめました」。こんな貼り紙が出ると 、あぁまた暑い夏が来たという実感を持ちます 。冷やし中華は早いところで4月末頃からメニューに載り 、ゴールデンウィークが終わる頃には多くの中華料理店が出すようになります 。
筆者が気に 入っている冷やし中華は、全国どこにでもある中華料理のチェーン店が出しているものです 。このチェーン店は 、値段が安く 、料理もそれなりに工夫しています 。たいていの冷やし中華は、麺の上に色々な具を盛り付けた富士山型の一皿盛り付けが普通ですが、このチェーン店では麺と具を別々のお皿に盛って出てくるところが特徴です 。
別々に盛ってあると 、具をおかずに麺をすするような感覚になって 、冷やし中華を食べている感じがしない 。そこで筆者などは 、具をさっさと麺の上にのせて自分で盛り付けを楽しむという感じです 。ついでに さっと酢を上からまき散らし、酸味を少々強くするのが大好きです。
発祥は仙台
中華そばがベースの冷やし中華ですが、中国にはありません 。中国でそれらしいのは 、ジャージャー麺というみそダレやバンバンジーと呼ばれるごまダレの麺です 。中国では冷たい料理は好まれないためか、冷やし中華なるものは生まれませんでした。冷やし中華は、日本人が発明した独特の料理だったのです 。発祥の地は意外や仙台でした 。諸説あるようですが 、今は仙台が最有力になっているようです 。
それは昭和12年にさかのぼります 。仙台シナ料理同業組合の同業者が集まって 、夏向きの冷たい料理はないかと話し合っていました 。まだクーラーなど普及していない時代ですから、夏には熱いラーメンは売れ行きが落ちる 。夏でも売れ行きが落ちない麺料理はできないだろうか 。こんな話から広がって冷やし中華の誕生へとつながったということです 。
具材の工夫
茄でた中華麺を水でさらして冷やし 、具材を麺の上に散らして盛りつけする 。色合いも考えた具材を使うのが冷やし中華の工夫のしどころだったのでしょうか 。その頃の冷やし中華の具材や作り方と 今風のものとは大差はありませんが、具材とタレは 、各地の料理人の工夫で年を経ながら吟味され 、おいしくなっていきました。
具材の定番は 、チャーシュー 、きゅうり 、味付けたけのこ 、紅しょうが、しいたけ 、厚焼き卵などのせん切り 、中華クラゲなどです 。ラーメンのチャーシューは輪切りをそのままのせているのに 冷やし中華はなぜかせん切りにするところが面白い 。そのほかの具材は 、お店や地方によって様々です 。らっきょう 、トマト 、わかめ 、茄でたキャベツ 、にんじん 、蒸し鶏肉 、ハム 、サラダ菜などのせん切りや芝エビなどです 。
中華料理店によっては 、具材に高級感のあるものを使っていますが 、だからおいしいかというとそれは人好き好きです 。辛子が添えてあるのも定番ですが 、筆者は使ったことがない 。東海地方などでは マヨネーズを添えると言われますが 、冷やし中華に合うのでしょうか 。これもまた好き好きということでしょう 。
お店によっては 、ベースとなるタレが数種類用意してあり好みを聞かれることもありますが、その中ではごまダレが筆者の好物になります 。
栄養価をラーメンと冷やし中華で 比べた資料を発見しました 。エネルギー 、たんぱく質 、脂質 、食塩相当量はどちらもほぼ同じようですが、冷やし中華は 、ビタミン類が多いのです 。これは様々な具がのっているからなのでしょう 。程よい酸味がさ っぱりした食感を与え 、夏を乗り切る料理としてぴったりだったのです 。
冷麺との違いは
冷やし中華のことを西日本では冷麺と呼ぶことがあるようですが、冷麺は韓国料理です 。こしの強いゴムのような麺は中華麺とは明らかに違いますが、冷麺と冷やし中華の根本的な違いはこの麺にあるようです 。冷麺の麺は 、小麦粉 、米粉 、でんぷん 、そば粉などを材料にした麺ですが 、中華麺にはかん水が使われています 。
かん水は 、中国の奥地の湖沼から湧き出る水が発祥だったそうで、この水を使って小麦粉を練っていたのですが、この湧水の中に炭酸ナトリウムが含まれていました 。この成分が小麦粉のたんばく質のグルテンに 作用し 、弾力と展延性を増して独特の食感を麺に与えました 。札幌ラーメンがおいしいのは雪解け水とかん水の産物という解説を聞いたことを思い出しました 。
冷麺の麺にはかん水が使われていないのが最大の違いですが 、タレ、スープと具は似たり寄ったりということでしょうか 。冷麺にはスイカが浮かんでいることがありますが 、冷やし中華にはない 。これもまた面白い食の文化の違いです 。
文:ばばれんせい 絵:とよだゆき
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