ジュンサイ
NO.102
田んぼのような圃場で生育
秋田県山本郡三種町はジュンサイの生産で名高い土地です。この地のジュンサイ栽培の圃場を訪問した際に、初めてジュンサイが生育している環境を見せられてびっくりしました。沼のような田んぼのような圃場一面に、濃い緑の楕円形の葉が、ところ狭しと、ぎっしり浮かんでいたのです。
ジュンサイがこのような環境で生育していたことが意外でした。この圃場は深さが1メートル足らずだそうで、圃場の底に根を張ったジュンサイが多数の茎を伸ばし、水面に葉を浮かべているのです。
元々は自生する水草
見るからに清涼感があり透明なぬめりから、生育環境は山間の清流をイメージしていたのですが、全く違った環境で生育していたのです。ジュンサイは、元々は池や湖沼に自生するスイレンのような水草であり、私たちは水中にあるこの若芽を食べているのです。
なぜ三種町が日本一の生産地なのか圃場経営者に聞いてみると、三種町森岳地区には角助沼とか惣三郎沼などの沼があり、ここにジュンサイが自生していたのを地元の人々が食べていたとのことでした。
いまは自生するジュンサイは少なくなり、専門の圃場で栽培されるようになったのです。収穫するときには、小さな箱型の浮き輪に乗った通称「とりこさん」と呼ばれる女性たちが、小さな竿を繰りながら、浮いているジュンサイを一つ一つ丁寧に手で収穫していました。収穫時期は4月下旬から9月上旬までで、最盛期は6月ごろということでした。
古事記にも登場
ジュンサイの歴史は古く、奈良時代の古事記にも記録があるということです。ジュンサイと呼ばれるようになったのは室町時代からということですから、日本では相当に古くから食べられていたようです。
古くは「ヌマワ」と呼ばれたようですが、これは「沼縄」という言葉がなまったものと思われます。葉柄が沼に浮かぶ縄のように見えたという説と「ぬるぬるした縄」がなまったものという説があるようです。ジュンサイの自生地として有名なのは、北海道函館市に近い大沼公園です。ここの小沼には、ジュンサイが多数自生しているそうです。
「つるん」とした「ぬめり」
透明なゼリー状の粘膜で覆われているので独特のぬめりとつるつる感があり、喉ごしと舌触りが何とも言えない初夏の清涼感を伝えてきます。
酢の物、吸い物、味噌汁、鍋物など様々な料理の食材として使われていますが、筆者の好物は味噌汁や鍋物の具として使われるジュンサイです。
生のジュンサイを熱湯で湯がいてからわさび醤油などでプリプリした歯ごたえを楽しんで食べるのも好きです。食べる回数が増えていくうちに、なんとなく汁物に浸っているジュンサイが好きになってしまったのです。
味噌汁にもいいですし、きりたんぽ鍋など鍋料理なら何でもよく、仕上がりにジュンサイをぱっと放すだけで独特の風味が出てきます。つるつるした食感が食べる瞬間にいかにもヘルシー感を与えてくれるのもジュンサイのいいところです。ぬめりこそがジュンサイの最大の特徴であり、これを食べると体全体が洗われるような感じになるのが何とも言えない食べ物なのです。
自然の健康食品
世界的な分布をみると西アフリカやオーストラリアなどの温帯地方にも自生していますが食用にしているのは日本と中国ぐらいだということです。
中国では古くからジュンサイの薬効を認めていました。中国で食卓を囲んだとき、スープに浮かんだジュンサイが出てきたので薬効を聞いてみたところ、抗ガン作用、解毒、解熱などに効くと言い伝えられているそうです。胃が弱い人にもいいということも言っていました。
また、中国人が「ジュンサイは森の湖沼に浮かんでいる自然の健康食品です」という言葉が印象に残りました。中国でもジュンサイはヘルシー感のある食材として知られているようでした。
確かにねばねば物質は、成人病の予防や老化防止に役立ち、肌を美しくする効果があるといわれています。ジュンサイにはビタミン、カロチンなどの栄養素を体へ運ぶ機能も持っていると聞きますので、清涼感とともにヘルシー食材と言われている意味が分かります。
文:ばばれんせい 絵:すなみゆか
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