Blog食育交歓

第2回食育シンポジウム

~国民視点で考える食育と学校給食~

ー後編ー

 

馬場 休憩時間が終わりましたので、これから後半に入りたいと思います。話題提供として、佐藤さんからご発言をお願いします。

 

佐藤 皆さんがあまりご存じではないと思われる話をします。この歯は正常だと思いますか、異常だと思いますか。パネリストの中山さん、どうぞ。

 

中山 異常だと思います。

 

佐藤 どうしてですか?

 

中山 僕もそうなんですが、歯がちゃんと合ってないのではないでしょうか。

 

佐藤 そうですね。ではこれはどうでしょう。NHKの朝の連ドラ「ごちそうさん」に出た子役の発音です。今から、ビデオを流しますので、耳の体操と思って、よく聞いてください。
(動画を流す)
・・・今なんと言いました?

 

瀬川 はむえつ?

 

佐藤 本人は「オムレツ」と言っているつもりなんですが…。次は、もっと簡単になりますからね。よく聞いておいてくださいね。
(動画を流すが、何を言っているか、全くわからない)

 

佐藤 彼女は「赤ナスご飯だ、いっただきまーす」と言っているつもりなのですが、何度聞いても、わからんでしょう。なぜ、こんな発音になるのか。実は、この子の口の形状に問題があるんです。上の歯がかぶさりすぎて、下の歯が見えない。だから、口が開かず、「ひたらきます(いただきます)」「はむれつ(オムレツ)」しか言えないんです。
普通の成人の歯というのは、上の歯が、下の歯に少しかぶさっているのが正解。一方、乳歯の場合は、切端咬合といって、歯の先端同士が当たり、永久歯に生え替わったときのために、歯に隙間があるのが正解です。この子のように隙間のない状態で、永久歯に生え替わったら、もう歯並びはガチャガチャ。最近、こんな子がどんどん増えているんです。
原因は、食べ方。清久さんは子どもの頃、リンゴはどうやって食べていましたか?

 

 

清久 まるごとかじりました。

 

佐藤 そうでしょう(丸かじりのポーズ) 今こんな動作ありますか? 子どもには小さく切って食べさせる。離乳食も与えるときも、スプーンで口の中に放り込むのは駄目ですよ。子どもが首を伸ばし、自分からくわえにいくように仕向けないといけない。そうすることによって、舌が伸び、下顎が前に出て、正常な口元になる。
そういう意味で、食べる中身も大事だけど、ぜひ食べ方の方も、給食関係者には気にかけてほしいですね。

 

馬場 口の中の問題を提起していただきました。非常に重要ですね。高度な対応策が迫られているわけですが、佐藤さん、取材をしていて、ここまで考えて指導をしている、あるいは問題意識を持っているという学校関係者、栄養教諭とか、そういう人はいますか?

 

佐藤 九州には、西日本新聞がありますから、私の記事を読み、実践されている方たちは多いです。

 

馬場 西日本新聞はローカル新聞の中でも、発行部数の多い新聞の一つですからね。影響力があります。
西日本新聞は、食について非常に積極的に取り上げて、2003年から連載『食卓の向こう側』で、このような問題提起をしています。年に2回開かれている学校栄養士の全国大会なんかでも、このようなテーマ、問題意識は出たことないと思います。今度ぜひ佐藤さんを講師に呼んで、こういう話をしてもらったらいいかと思います。
今の話は学校給食に期待するというテーマでくくると、家庭と学校という両方にまたがるテーマになってくると思うんです。皆さんにお聞きしたいのですが、学校給食に期待すること、あるいは、家庭教育、あるいは家庭の食生活。こういうものに期待、あるいはこういうふうにあるべきだという意見を、ちょっとパネリストの先生たちと討論してもらいたいなと思います。
会場には学校給食に関わっている先生、栄養教諭、あるいは栄養士。そういう方が多数おりますので、そういう人たちにもいろいろな意見を出してもらいたいと思うのですが、いかがでしょう
行政を仕切っている清久先生。やはり行政の立場から、義務教育の一環としておこなわれている学校給食はこうあるべきであろうと、時代の要請もありますし、保護者は二極化していますよね。学校給食とか子どもの教育について熱心な保護者と、それからもうほったらかしの家庭。そのほかにもいじめとか問題が出てきていますが、家庭にものすごい重大な問題を抱えている。そういう中にあって、行政としては、食育だけに限らず、どのように対応をしていくのか。あるいは、先生個人的に、国はこうあるべきだろうということにも踏み込んで、語っていただきたいと思います。

 

 

清久 何を期待するかということよりも、以前から食に関する指導の手引きという中に、六つの目標というのがあるんです。これはやはり学校できちっと教えなくてはいけないし、給食とどう絡ませるかということがあると思うんです。先ほど、食育ってなんですかという話が出たのですが、私がさっき、最初の話につなげて、自己管理能力といいましたが、もっというと、この六つをきちっと子どもたちに指導をするというのが食育だと思います。
ステージもあると思うんです。我々のように、概念的な事柄というか、キーワードでお伝えするという意味でいうとそうなのですが、もっと実践的なレベルになっていくと、先ほどお話ししていただいたような、食べ方であるとか、噛む指導であるとか、それから箸の使い方ですよね。それももちろん食育に入っているんです。
そういう意味で、文科省としたらこの六つの事柄というのはやはりきちっと学校給食を通して、あるいは学校教育活動全体を通して、こういう事柄を身につけさせていきたいなと思っているのです。この事柄というのが、やはり学校だけでは完結していかない。家庭と連携をしていかないとうまいこといかないので、そのことについては、学校としても、家庭のほうに投げかけていきたいなと思っています。

 

 

こんな事柄を現場の先生からお聞きしました。校長先生なのですが、僕の古くからの大先輩で、ある市の中学校の校長先生をされているんです。僕が食育調査官になったものだから、その校長先生は食育に力を入れてくださる。そうしたら、「清久、お前のおかげでな、食育ができるんやけどな。でも、せっかく子どもが食育大事やなと思って、自分で朝ごはんをつくるって決心したんだけど、家へ帰って『お母さん、こういう材料が欲しいのや』と言ったら、一言、『そんな金はない』って言われた。どうしたらええんや」と。学校で「大事だよ、大事だよ」言うて、子どもは素直にそれを受けてやろうとしたけども、家庭でそうなった。本当にお金がなかったんだと思います。
それで、こういう話を校長先生にしました。子どもによっては今すぐにできない子どももいる。だから、子どもが自立し、自分のもうけたお金で食材が買えるようになったときに、そのときにもう1回実践してねと言ってくださいと。
いろいろな目標レベルがあると思うのですが、いつその子の身につくか、それが活用できるかという事柄については、今すぐにやってほしいというのはやまやまなのですが、それだけではなく、生涯にわたってという視点は必要かなと思っています。そういう意味で学校の食育は推進していただきたいですし、そのことを家庭につなげていっていただけたらなというふうにして私は思っています。

 

清久 瀬川さん、いかがですか?

 

 

瀬川 いろいろな食育の視点がある中で、全てを補いきれてはいないのですが、いろいろな子どもたちがいる中で、これをやりなさい、あれをやりなさいというのは難しいところはあります。ただ、私の強みとしては、給食はみんな同じに、平等に食べているものなので、それを使って、心の成長や、箸使いなど、うまく家庭につなげたいと思っています。どのようにつなげていくかの手段は、試行錯誤しながら進めています。
一つ考えたのは、箸の使い方を正していくことです。1年生から6年生まで見ていても完璧にできている子はあまりいないのではないかと思います。1年生、から続けていき、6年生に上がるまでには完璧にできるようにと願って学校でも指導しています。しかし、学校でできても家でできなかったらそれは意味がありません。そこで、家庭とのやりとりができるカードを作りました。箸を正しく持てていると判断できた時にスタンプを押すといったものです。家庭、担任、そして私の三者で見ることで、「みんなの目で見守っている」ことを感じて安心してもらい、児童に頑張ろうという気持ちを持ってもらいたいと思っています。
このように、家庭に返すという意味では少しずつ取組みを始めていますが、なかなかやれていないのは事実です。皆さんのお話を聞いて、今後の課題だと感じました。

 

佐藤 基本的に学校は、勉強を教えるところでしょ。でも現実を見ると、朝9時の段階で、椅子にずるっと腰掛けている子がいる。午前中に体育があるともう駄目。机に突っ伏している。朝食をとっていないから、エネルギーが切れているんですね。
こういう子たちを前にして、教科書をよくしたり、先生を増やしたり、フィンランドに行ってきたりしてもどうなんでしょう。授業を聞く器が出来ていないのに勉強なんかできるわけがない。
ということは学校側も、家庭に踏み込むような方策がいる。私の友人は、味噌汁の日というのをやりました。これは「子どもが作る〝弁当の日〟」からヒントを得たのですが、朝、子どもたちに味噌汁をつくらせてから、登校させるんです。
普通、子どもらの朝といえば、「早く行きなさい」「何しなさい」と怒られてばかり。でも、朝、子どもが味噌汁を作ってくれたら、親はなんと言いますか。もう感動しますよね。「ありがとう、ありがとう」でしょう。朝から「早くしなさい」という言葉じゃなくて、「ありがとう」という言葉をかけられた子どもは、もう本当にウキウキ気分で学校に来るんです。
学校から子どもへ、子どもから学校へ。そうした流れをつくるような取り組みが必要だと思います。

 

清久 ありがとうございます。学校が教えることというのは、先ほど勉強とおっしゃっていましたが、じゃあ勉強というのはどういう定義かというと、学校の中での勉強というのは、知徳体なんです。今おっしゃられていることでいうと、徳の部分です。いわゆる生きる力の中でどういう事柄が必要なのか。今回の文部科学省から出した、新しい学習指導要領の中にも、人間性というのを入れているんです。資質能力の中に。三つの柱として資質能力を入れたのですが。まさにおっしゃられるとおりです。
食育が家庭と学校とつなげることで、心も育むことができるんです。お父さん、お母さんに対する感謝の気持ちですよね。親は、子どもがもしも何かつくったとしたら、それうれしいですよね。そういう気持ち、親子の絆ですよね。そういうものもつくっていくと思うんです。本当に家庭と学校をつなげていく仕組みというのをつくるのが大事だと思います。

 

佐藤 清久先生は〝弁当の日〟はご存じですか?

 

清久 はい、聞いてございます。

 

佐藤 (会場に向かって)〝弁当の日〟をご存じの方はどれくらいいらっしゃいますか? かなりいらっしゃいますね。知らない方のために言うと、これは、5、6年生が、早起きして親の手を借りずに自分一人で弁当を作り、学校に持参して、皆で食べる取り組みです。
弁当は、朝6時に起きるからできるわけじゃない。前の日にちゃんと段取りをしているからこそできる。そして1時間で、調理から後片付けまで終わらせるのには技術がいる。これまで、朝食というのは、朝になれば自動的に出てくるものと思っていたけど、こんな難しい技術がいるんだ。そしてこれを毎日やってくれている人がいるんだ、と。そのとき初めて、朝食の向こう側が見えてくるんです。技術も身に付くし、ですね。
香川県で始まり、現在約2,000校まで実践校は増えていますが、これをやった学校は、必ず残食が減るんです。なぜか。それは給食のおばちゃん、おじちゃんとか、栄養士とか、給食の向こう側が見えるから。「僕たちのために頑張りよるけん、僕たちも食べよ」、と。

 

馬場 中山さんは、学校、家庭を巻き込んだ食育は、どのようにやっていくべきかということについて何か意見があったらぜひお願いします。

 

 

中山 僕らが今これを見たときには、そうだなと思ったときに、すごく実務的な話でわかる方とわからない方がいるかと思うのですが。これはたぶん新しく栄養教諭になられるかたとか栄養士になられる方って意外と食材のことが知らないんじゃないのか、突き詰めて知らないんじゃないのかなと思ってしまいます。若い栄養士さんたちや新任で来る方たちともお話をしていて、学校で栄養の教科とか、学校で教えてくれることとか計算とかはすごくできるのですが、実際その食材が、例えばこの料理に適している食材なのかとか、そういったことがやっぱりよくわからない。
例えばジャガイモ、ニンジン、玉ねぎとか、そういう給食でしっかりとたくさん使うような品目で例に挙げていくと、まず、サラダに向くジャガイモ、あとは肉じゃがに向くというのがわかるのですが、次にサイズ感だとか価格だとか、あと産地の今どこで取れているのかとか、そこまでわかっていかないと、逆に全然思っていたものと違う料理が出来てしまう。
特にジャガイモだと中にすが入っているジャガイモって、たぶん皆さんも栄養士をやられている方、現場に立たれる方ってすごく多いと思うのですが、品種によっては大きくてもすがないジャガイモもあります。
いい八百屋、ちゃんと知っている八百屋さんが納品されているところは、そういうことってないんです。北海道がひねているんだったら、じゃあ今度新じゃがに変えていくとか、それがちゃんと僕らの業界でいうとやられている。
八百屋さんにいいようにやられちゃっている場合でも、栄養士がそこでちゃんとした知見を持っていれば、なんでこの時期にこのジャガイモを持ってくるのとか、一言言えるわけです。そうすると、絶対学校給食では、この学校は入れちゃいけないんだと業者もなるわけです。
そこのところは意外とすごく大切で、玉ねぎにしても同じです。いつでも相場観も勉強し把握したうえで学校給食につなげていくと食材の品質に当たり外れがない。例えばニンジンがブワーッて浮いてきちゃったら、「なんでこれニンジン浮いちゃうの?」みたいな感じになる。春ニンジンは高くなるので、業者のほうでサイロに、自分の冷蔵庫に入れておいて、安いうちに買っておいて、10日過ぎ、15日過ぎくらいに給食に出していけば、2週間冷蔵庫にあればスカスカじゃないですか。そうすると全部浮くんですよね。
逆にそれを知っていれば、「なんでこれ浮いちゃうの?」って、どんどん突き詰めていけば、そうじゃないやつを持ってくるようになる。大体常套句は「市場でそれしかなかった」と言うんです。しかしあるんです。ゼッタイあるんです。僕らは見つけてくるのですが。うちはオーガニックフードとか、あとはちゃんとした製法でつくられている調味料しか置かないのですが、意外とそういうものの調味料で食材をつくっていったほうが、一つあたりの調味料の使用量というのは、少なくて味がピシッと決まるんです。
トータルで考えると、普通の大手メーカーさんの甘くなっちゃってしょっぱくなっちゃって、甘いのしょっぱいのの繰り返しで、どんどん調味料を加味していくとか、あと、今一番怖いのはオールインワン調味料みたいな、これを入れておけばなんでも味が、肉じゃがでもなんでもこれでできますよ、みたいな感じのものとか、そういったものを使わないようにしていく。
一つ一つの素材の味を、ちゃんと育てるということはすごく大切だなと思います。海外の方たちが買い物に来ると、ルッコラとかを普通に食べるんです。子どもが買いに来て。だけど日本人の子どもって、絶対ルッコラなんか食べないんです。でも子どもが食べないんじゃなくて、食べさせていないから食べないというのがあるのです。
小さいうちからちゃんと苦いものもちゃんと食べさせる、辛いものもある程度の年になったら食べさせていいと思うんです。小学校に行ったら別にもう食べられないものはない。うちのお客さんは小さいときから食べていて、それがそのままうちの近隣の小学校に上がっていく子たちがいるのですが、全然そのへんは給食とか食べられないもので困ったことはないというお子さんのほうが多いです。
そういったことの積み重ねとか、持続させることが大事であり、一番できる環境の範囲って違うと思うので、できるところからできる範囲でやっていくということが、僕は大切だと思っています。

 

馬場 生きた食欲の話です。清久さん、どうぞ。

 

 

清久 今お話をお聞きしていて感じたことが2点あります。1点目は、確かにそういう食の選択はすごく大事です。自分が興味があって学校できっかけをもらって、その後子どもたちは自分でそれをしようとするという子どもたちを育てていきたいなと思いました。
この食材はこの料理に合うのかどうかということも、一つ目は教えてもらうけれど、次、二つ目、三つ目以降は自分で試してみて、これがうまいこといったとか、これがあかんかったとか、それが持続可能な選択能力になるのかなと思いました。
実は、私、転勤で東京へ来てからずっと食事をつくっているという話をしましたが、味噌汁を食べるときに10種類以上の野菜を入れるようにしているんです。なので、お椀には入らないので、丼で食べています。でも、味噌の量は丼の量にしているので、ちょっと薄めなのですが、でも、10種類以上入っても十分食べられるんです。
どんなものが入れられるかなと思って試しているんです。昨日入れて失敗したなと思ったのがアスパラやったんです。アスパラは、おそらくですけれど。失敗したらじゃあどうしようかと考えます。たぶんうまいこといかせようと思ったら、長いこと煮込まなあかんのかなと思ってるんですが。でもいずれにしても、そういう事柄を考えて生活できるようになってほしいな思いました。
栄養教諭、学校栄養職員というのは、食の事柄について様々な知識を得ていると思うんです。それをどういうふうに教材化するかということが大事で、先ほどお話ししていただいた中で、僕も二つこれ教材にできるなと思いました。ジャガイモのスカスカのジャガイモと、それからちゃんと詰まったジャガイモを子どもの前で見せて、「どっちを食べますか」と子どもらに質問するんです。
子どもらに選ばせて、子どもらの目の前でスパンと切ってやる。それだけでも子どもはジャガイモに興味を持ちますよね。それからもう一つはニンジンです。ニンジンも、根野菜って沈みますよね。まず子どもたちにそれを先に教えておきます。教えておいたうえで、次に、水に浮かぶニンジンを見せるんです。なんで浮くんやろうなというところから授業を始めます。そんなことをふと感じた次第です。

 

瀬川 授業のこと私も思い浮かべていました。やってみようかなと。ネタをいただきました(笑)。

 

佐藤 やはり栄養士さんは、農業のことを勉強せんといかんですね。最初に献立ありきで野菜の注文をされたら絶対困りますもんね。

 

中山 すごい困る。

 

佐藤 献立ではなく、畑の都合に合わせて。栄養士さんも、農業のことを知ったら、また世界が広がるんだけどなあ。

 

中山 草加の給食は、僕と栄養士との取組みの中で、だいぶ畑に合わせたメニューづくりをしてくれるようになりました。地域の旬がわかってくれば、変な特産物とかにしなくていいんです。その地域で、今取れているものが特産物に切り替わってくるので、それが学校給食とつながっていくと、それが何十年も経って、それが食文化になってくるんじゃないかなと思っています。
肩肘張ってこれをやります、とかじゃなくて、できる農家さんとできる学校の、まず1校ずつからでも始めていけばいいと思います。無理をしたら絶対に続かなくなっちゃうので、続けるということが大切だと思っています。

 

佐藤 少し、残食について話をさせてください。
残食を減らす方法を、給食室の中だけで考えると、もっとおいしくするしかない。だけど、私の子どもの頃と違って、今はもう九十何点ですよ。95点の給食を96点にしても何も変わらない。
かつて、農水省の人に、「カレーだったら残らないけど、切り干し大根だったらたくさん残る。どうしたらいいでしょうかね?」とクイズを出したら、「全部カレー味にする」(笑)。私の答えは、「朝、校庭を10周させる」。腹が減ったら、「先生、なんでもいいから食べさせてください」となるでしょ。私が言いたいのは、自分たちだけの世界で考えるのではなく、担任の先生とか、周囲と協力して始めて、新しい道が開けるということです。瀬川先生、責任重大ね。

 

 

清久 生産者さんと話をすることとかありますか?

 

瀬川 あります。

 

清久 どんなことを話しされますか?

 

瀬川 私もあまり詳しいわけではないので、農家さんに、「この野菜だとどういう食べ方がおいしいですか?」と伺うことがあります。日野市も、畑を見学しに行く機会がありまして、そこで、野菜の育ち具合を見せていただいたり、「実は葉っぱもこういうふうに使えばおいしいんだよ」など教えていただいたりします。
先ほど、時期によって献立を考えてほしいとおっしゃっていました。実際に日野市も取り組んでいます。日野産の農作物が、どの時期に何を収穫できるかという一覧があるため、栄養士もその一覧を参考に、旬の野菜を使ったものを軸にして献立作りをしています。
そうすると、安価で新鮮でおいしいものをいただきことができます。さらに作ってくださった方の顔が見え安心できます。農家さんとのつながりが強い分、子どもたちにも伝えやすいです。実際に目の前に来て教えてくださることもあります。これらは大切な食育だと思っています。

 

佐藤 献立だけではなく、そういうところも含めて学校給食甲子園は、給食を評価すべきだと思います。

 

清久 確かにそうですよね。しかも地元の食材がたくさんふんだんに使われている。今の意見に賛成の立場で話をするのですが、いわゆるつくっているという事柄に合わせてということもあるのですが、我々学校としては子どもたちに教えるということもあって、教科書にこういう題材が載っている。それに合わせて給食をつくりたいというところがあるんです。
だからそういう事柄を農家さんと話をできるというのが、僕はすごく大事かなと思うんです。先ほど話をされるとおっしゃっていましたよね。

 

中山 話したい農家さんもたくさんいるんです。あと、ゴリゴリに固まっちゃった農家さんもいるんですけど、意外と聞けば教えてくれたりする。やっぱり自分のつくったものにプライドを持っている方たちが基本的には多いので、そこをうまく引き出してあげる、実は女子の力のほうが絶対に強いと思うんです。

 

清久 男は駄目ですか?(笑)。

 

中山 男の方だと「え、何?」みたいな感じのことを言うので。ただ、うちのスタッフもそうなのですが、行くときにまったく素人のふりをして、「お前こんなことも知らんのか」みたいな感じで聞いていくということはすごく大切だと思っています。
農家としては当たり前なんだけど、栄養の現場だとか、他の食材として使う現場というのは、それが意外と当たり前じゃなくてすごく大切なことだったりということに農家自身が気付いていないんです。
「なんでこれはこうなんですか?」「なんでこれを捨てちゃうんですか?」「これまだ食べられるのに捨てちゃうんですか?」「これは安く出してくださいよ」とか。「なんでこの時期こういうものしかつくれないんですか?」とか、そういうことをすれば地域の特性もわかっていくし、あとは、その農家さんのハートもちゃんとつかまえてくれると思うんです。
まず1回やってみましょうよというのが言いやすい環境の、まず地ならしをしてから、農家さんに、そんな肩肘張った地ならしじゃなくても、ちょっと話をしに行く、くらいの感じから、じゃあ農家さんを回らせてください、それは行政機関の力を使って、農業係とか産業振興とかあると思うのですが、そういった人たちと一緒に回りながら、この人はどういうタイプの農家さんか知る。
若手の農家さんは、新しいことに何かチャレンジしてもらえる。あとは、ちゃんと伝えるときに、学校給食はビジネスマーケットとして、農業としてできるんだよというのを必ず伝えてあげるということです。ただ、マーケットを取るには、大変な細かい注文もあるけど、それはどういうメリットになるかを伝える。
うちも学校給食とつながってやっているのですが、実際肌の感じとして、全然知らないところで安心感がいつの間にか生まれているんです。僕らはそれを求めてやったわけじゃないのに、「学校給食に入れている農家さんですよね」とか、「入れている会社ですよね」とかって、全然その本業とは関係ないところで独り立ちしていくというのがあります。
やっぱり話が広がっていけば、農家さんって嫌な思いはしないと思いますし、信用にもつながっていくので、そういった面ではもっとできるとは思います。

 

清久 ありがとうございます。学校も農家も肩肘を張らずに話をしたらいいことですね。すいません。時間がそろそろです。申し訳ありません。

 

馬場 こんな楽なモデレーターはないんでございまして、パネリストがどんどん論議を広げて、論点を明確にしていただきました。質問の紙をいただいているので、これにお答えしたいと思います。
一つ目ですが、中学校の給食時間が実質的に15分くらいしかない。これじゃあ噛むという指導もできないし、完全な食育はできないという観点から、このことについて国ではどのようにお考えですかという質問で、ここは清久文科大臣に答えてもらうより他ない。

 

清久 それについては、都道府県教育委員会を通じて、給食時間については、今まで弁当やったところがそういう傾向が見られるんです。弁当の時間と同じ時間を変えないというふうにされているんです。でもそれでは食育としてはいかがなものかということで、府県教育委員会から指導はしてもらうようにはお願いをしています。

 

馬場 では文科省から強く指導していただきたいということでお願いします。次に去年の8月から、学校給食の栄養価の中で、塩分を2.5グラムから2.0グラムに減ったことについてです。質問は、和食を進めておいて、これでは和食を出すのは難しいということになりかねないという質問の主旨です。
食育調査官ではなく、これは学校給食調査官の話なんでしょうけど、職場でもそういう話題は出ているんじゃないですか?

 

清久 そちらのことについても、その基準を全て毎日そういうふうにしてくださいと言っているわけではないんです。基準としてこういうものがありますと出しているだけで、それはもう学校とか現場の実態に合わせて、この日は超えちゃうという日もあってもいいというふうに思っていただいたらいいと思うんです。
トータルとしてそういうふうに目指していきましょうという話なんです。ただ、文部科学省がそういう文書を出すと守らなくてはいけないとなってしまうので、そこについては柔軟に考えていただけたらいいのではないかなと思います。

 

馬場 塩分でおいしく感じるということがけっこう多いのですが、塩分を減らすレシピを熱心に開発している学校栄養士もいます。ですから、ぜひ多角的に文科省でも指導通達をしていただければ、皆さん喜ぶと思います。
予定の時間もそろそろ近づいてまいりましたので、本当に名残惜しいのですが、本日の食育シンポジウムも閉会へ進みたいと思います。それで、閉会のあいさつは、21世紀構想研究会のアドバイザーの荒井寿光さんにお願いします。荒井さんは元特許庁長官、内閣官房知的財産戦略本部、これは内閣総理大臣が本部長ですが、そこの事務局長をやっていらした方で、知的財産戦略関係では日本では知らない人がいない権威者でございますが、なぜか食育シンポジウムに来ていただいたので閉会のあいさつをしてもらうことにしました。
荒井さん、ぜひ感想も含めて、閉会のあいさつをお願いします。

 

荒井 皆さん、こんにちは。本当に食育、あるいは学校給食をやっておられる方、非常に仲のいい方だと、お互いの輪が非常にグルグル回る。そういうみんなで同じ目標に向かって進んでいる感じがすると思いました。
一つの印象は、西日本新聞は、みんなで読んだほうがいいんじゃないかという印象が一つ。それからもう一つは、学校給食に使われている食材を出している農家は、信用が増していく、ブランドが上がっていくというのは、これは素晴らしいことだと思います。これは農家の方、あるいはこういうことをおやりになっている方と同時に、学校の現場で給食をおつくりになっておられたり、食育を進めておられる方のおかげだと思います。
ところで知的財産というのは、日本人がいろいろ頭を使ったり、気を遣ったり、そういうものの成果が知的財産なのです。研究の現場とか技術の現場で出てくる発明とかそういうもので技術国家をつくっていこうと。それからもう一つは、感性というか、皆さん方と同じようにいろいろいいことを考える。これから文化国家をつくっていこうじゃないかということで、この2本柱でやったのが知的財産基本法というもので、出来たのは2003年なんです。

 

 

その中で、じゃあ知的財産で文化国家はなんだろうとかんがえると、やはり日本人の誇りは、寿命が長いことだと。世界でも1番か2番。どうしてかというと、日本には学校給食があるからです。子どもの頃からバランスの取れた食事を食べているから、日本人は長生きをするんだということで、こういう学校給食は非常に大事だと認識された。
それからもう一つは和食です。長い文化、伝統がある。これが食文化だということで、この文化国家の中に日本の食文化、和食。それから、地域にいろいろな地域ごとの食の文化があります。
食文化懇談会というのを始めまして、和食を広めたり、それから日本各地の地域の食事を広げてもらう。あるいは守っていただく、発展させてもらう。そういうことで出来てきたのが、2005年で同時に食育基本法というのが出来た。これは文科省が中心になって、こういうことをやっていくのが日本文化にとって大事なことだということで始まったというのが関係しております。
その結果、学校給食甲子園が始まり、今年は14年目になるわけです。学校給食を一つの場でつくる人、それから食べる人、それから食材を提供する人、それから健康という観点で見る人、それからそれを全部見ているマスコミの方とかが力を合わせてやっていったらどうかというのは楽しく有意義なことになります。
今問題になっているのは、小児科学会の先生がまさにおっしゃっていたように、学校給食の現場は非常によくやっている。しかし、大人になった途端に、孤食だとか、朝飯を抜きますとか、いろいろな人が出てきて、突然そこからまた食事のバランスが崩れてきているので、是非、文部科学省の初等中等教育局から生涯学習局に広げて施策をしてもらいたいと思いました。
今日も言われていましたが、リンゴはかじるのがいいぞというので、すってはいかんというのがよくわかりました。こういうこととか。痩せ願望は良くなくて小太りがいいとか。そういうことをみんなでやっていかないと、日本人は、学校の現場だけはいいけれど、しかし社会に出た途端にまたバランスが崩れてきているから、まあ、子どもが病むだけではなく、大人になってからもキレる人が増えているわけですので、学校給食、あるいは食育の経験を大人にも適応する。そういうことをやる国民運動に発展させていったらいいんじゃないかということを感じました。
今度は国民運動としての皆さん方が経験されたのをみんなに発展させていく大事なお役目だと思いますので、ぜひ日本人の健康、それから豊かな心、健やかな心を守っていくことに誇りを持っていただいて、発展させていただきたいと思っております。
今年の暮れには第14回学校給食甲子園がありますし、適当なタイミングで、その前か、あるいは来年に、またこういうシンポジウムがおこなわれると思いますので、ぜひ皆さん方の役目は非常に大事だということで、これからもますますご活躍されますことを期待いたしまして、あいさつとさせていただきます。本日は本当にありがとうございました。

 

馬場 さすが知的財産の専門家を感じさせるコメントでありご挨拶でした。ありがとうございました。
今回は第2回でございますが、いずれにしても、私たちは学校給食甲子園、それから食育シンポジウム、食育ワークショック、日本食育学会での発表、学校給食50字作文コンテストなどを行いながら、学校給食とか食育、日本人の食文化、そういうものを啓発していこうという運動でございます。これからもぜひ私たちの運動に陰からご支援いただきたく、お願いしたいと思います。
それでは、第2回食育シンポジウム、このへんで終了いたします。皆さん、本当にありがとうございました。

 

(終わり)

 

写真・21世紀構想研究会事務局 福沢史可

 

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