Blog食育交歓

2022.6.21 Tue

2万1000食を供給する給食センター最前線

 鹿児島市立学校給食センターを見学

国の食育施策を軌道に乗せた功労者として知られる、元文部科学省食育調査官の濱田有希・鹿児島市立中央学校給食センター所長を訪ねて、食育・学校給食の最前線の活動内容と課題などをお聞きしました。

 

 大規模センターの運営に取り組む

鹿児島市真砂本町の鹿児島市立中央学校給食センターの濱田所長室を訪問すると、PCを開いて仕事に打ち込む姿に久しぶりにお目にかかりました。早速、調理場を一望できる2階に案内されました。広い調理場を一望して、その大掛かりな施設と調理現場には目を見張りました。

開所当時から5献立5ブロック方式を導入、丁度、主菜と副菜など10品の料理を調理している時間帯で、きびきびとした動きで無駄なく調理に取り組む調理員の姿が見られました。

 

 衛生管理で腐心する毎日

鹿児島市には中央学校給食センターのほかに、吉田、郡山、松元、谷山、喜入の計6センターがあり、濱田所長はこれを統括しています。第一に腐心していることは「安全・衛生管理の徹底です」と言います。

6センターで小学校31校、中学校24校の合計2万1千食を毎日、無事に提供する責任は並大抵のことではないでしょう。万一、食中毒事件が発生したらその責任はすべて所長に集約するからです。

濱田所長は「6センターの中には、築年数が30年を経過した施設もあります。安全で衛生的な魅力あるおいしい給食を提供するために、職員一同、緊張感をもって取り組んでいただいています」と言います。

全国、どこへ行っても築何十年という老朽化した学校給食調理場が散見し、改善、改築などに苦労している現場を見てきました。老朽化した調理場から食中毒事件が発生することが多いのですが、原因をそこに押し付けられない悩みがあります。

「衛生管理は、リスクをいかに抑えていくかという目に見えない状況のコントロールが必要ですから、日々の作業はもちろんのこと、施設・設備について、年次計画的に保守点検や修繕等を行っています。また、人的配置については、委託業者とも連携しながら実施しています」と語っていました。

どこも厳しい自治体の予算の中で、安全・安心の学校給食を確立するためには行政と地域一帯の理解と協力が欠かせません。

「学校給食は、食育の根幹に位置するものであり、成長期に必要な子供たちの栄養管理と各教科等における食に関する指導によって、家庭や外食も含めた食生活全般から生活習慣病予防までつながる健康施策の原点にあります。栄養教諭、調理員ともその観点で仕事に取り組むように、日頃から共通理解を図っています」

さすがに国の食育施策を軌道に乗せた元文部科学省食育調査官の言葉です。

 

 食育施策を軌道に乗せた2つの取り組み

濱田所長が調査官をした2013年から2016年にかけて、文部科学省は食育施策を軌道に乗せる時期でした。濱田調査官は食育の指針となる初めての食育教材を作成しました。また、「スーパー食育スクール」選定事業を主導して、全国の学校と栄養教諭、学校栄養職員、調理員らに食育に取り組む意識をはっきりと根付かせました。

筆者は学校給食、食育関係の審議会の委員を多数務めてきたので、濱田調査官の食育施策に取り組む姿勢と実行力を見てきました。

特に2016年3月に発表した小学生用の食育教材の作成では、「たのしい食事つながる食育」という名タイトルを命名し、全国の学校で活用されるようになりました。

今でも文部科学省のHPから自由にダウンロードできると同時に、学校の実態に沿ってカスタマイズできる教材として、学校ではよく使用されています。この教材が発信されてから民間の業者も食育教材開発を手掛けるようになり、今では多くの教材が競い合っています。筆者はこの教材を作成する委員会の座長を委嘱され、濱田食育調査官の指導・助言を受けながら各委員と協議して作成したものでした。

児童用(表紙・目次・背表紙等) (mext.go.jp)

https://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile/2016/03/10/1367897_1.pdf

小学中学年用教材

https://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile/2016/03/10/1367897_3.pdf

「スーパー食育スクール」は、大学や企業、生産者、関係機関などと連携し、食育を通じた学力向上、健康増進、地産地消の推進、食文化の理解などによって、食育の多角的効果を科学的データに基づいて検証を行うものでした。

スーパー食育スクールの成果を分かりやすく示し、普及啓発することで食育のより一層の充実を図る目的で、全国の小中高校から企画提案書を公募し、選定委員会で指定校を決定して予算を付与する施策でした。

この選定事業の推進によって、多くの自治体や国民が食育の真の意味を理解するようになり、学校給食から成人以降の食生活と健康管理まで食に対する広い視点を持つようになりました。

 

 センター方式の食育授業を展開

濱田所長が取り組む食育授業は、それぞれ6センターに配置されている10人の栄養教諭が各学校と連携し、計画的に年間100回を超える食に関する指導を行っているとのことです。

給食センターは単独校と違って、子供と接する機会と時間が限られています。全国的にセンター方式が増えてきており、食育授業をどうするか対応を工夫しているようです。

濱田所長のセンターでも、その日の献立に合わせた資料やパネルを準備して行っているそうで、児童・生徒からは多くの感想や感謝のメッセージが送られてきていました。センターの一角にそれを掲示、展示するコーナーも設置されていました。栄養教諭のみならず、調理員にとっても大きな励みになっているようでした。

また、食育授業に対する栄養教諭の取り組みや研修の様子も掲示されていました。

濱田所長は「食文化の多様性に合わせた食育や、児童・生徒のライフスタイルの変化に合わせた学校給食という観点も必要になっています。カルシウムや鉄分の摂取不足だけでなく、塩分、糖分、脂肪分の過剰摂取など小児生活習慣病や肥満傾向、さらに過度のやせ願望など食と健康への課題もありますので、広い視野で教育現場を考えた学校給食をいつも心がけています」と語っています。

文部科学省・食育調査官時代と変わらぬ意欲的な姿勢に感動しました。

文責・認定NPO法人・21世紀構想研究会理事長 馬場錬成(元文部科学省食育推進の各種委員会委員)