Blog食育交歓

2019.12.23 Mon

「全国学校給食甲子園」に参加して

2019年12月 矢崎千絵

 

去る12月7日~8日、「全国学校給食甲子園」の決勝大会が行われました。
「全国学校給甲子園」の取り組みは、2006年から毎年開催されており、今年で第14回をむかえます。
今回は、主催しています「特定非営利活動法人21世紀構想研究会」の運営のお手伝いとして、初めて参加させていただきましたので、その中で見聞きした私なりの感想を書いてみたいと思います。

 


矢崎千絵さん(前列左)と大正大学エンターテイメントビジネスコース2年生の皆さんと事務局スタッフ

 

 

決勝大会では、全国から勝ち抜いた精鋭の12校が東京駒込の女子栄養大学に一堂に会し、土日の2日間をかけて食育と調理のコンテストが行われました。
5月ごろから始まる書類審査では、全国1447の学校・給食センターから応募を受けました。それを第4次審査までかけて12校に落とし込み、最後の決勝大会では、各界の審査員の目の前で実際に調理をすることとなります。各校は栄養教諭(学校栄養職員)と調理員が2名のペアで参加します。
応募された献立は、実際に学校で提供したものに限られ、栄養価や分量については文部科学省の摂取基準、調理過程・衛生管理は学校給食法の基準に則って、調理されることが必要となります。

 

 

【食育授業コンテスト】

12月7日の土曜日には、まず食育授業コンテストが行われました。これは、栄養教諭(栄養職員)が中心となり、5分間で給食・栄養・食材についての楽しい授業が展開されます。現在は、多くの学校で、実際に栄養教諭(学校栄養職員)が給食時に各クラスを廻り、子供たちに語りかけながら少しずつ食育教育を行っているそうです。
選抜された各校の栄養教諭(学校栄養職員)は精鋭であり、何度もコンテストに参加している方も多かったこともあり、様々な写真やイラストを駆使した教材を示しながら、あるいは豚や植物に扮したりしながら、子供たちにもわかりやすいやり方で、それぞれの授業を行っていました。
感心したのは、各校の食材に対するこだわりと、地域の生産業者との連携でした。それぞれの学校が地域の特産物を意識しながら、地元の心ある生産業者と協力し合って食材を調達しており、時には子供達も収穫を手伝ったりしながら、食物に対する意識を深める工夫をしていました。
ある学校では、味噌などの加工品を生徒が手作りしていたり、野菜なども学校の敷地内で一から育てていたりします。その収穫した唐辛子を使ってラー油を作り、地域で販売している様子などもうかがえました。
それぞれの給食を作る場の情熱と熱気が伝わってきて、胸が熱くなりました。

 


鹿児島県垂水市立学校給食センターの栄養教諭・平野朋子先生の食育授業は薩摩藩の偉人、西郷隆盛や大久保利通の歴史のエピソードを交えながら楽しい授業を展開

 

 

【学校給食調理コンテスト】

2日目の12月8日(日)は、いよいよ調理コンテストの本番です。各校、栄養教諭(学校栄養職員)と調理員が一組のペアとなり、女子栄養大学の調理室の調理台を使って、1時間の制限時間をかけた勝負となります。
この調理コンテストのために、各校は地元から食材を持ち込んでいて、開始前に食材や調理器具を、作業がしやすいようにきちんと並べておきます。
調理室にはカウントダウンのための巨大なデジタル時計が高所に設置されていて、スタートの合図とともに、59:59からどんどん秒数が減っていきます。
たった1時間しか調理時間がなく、その間に各ペアは6人分の給食を作り上げ、すべての器具の片づけも同時に終えなければなりません。時間との闘いの中、各チームがテキパキと調理を進めていきます。
その様子は、調理室内に仕付けられたライブ用のカメラによって、別室のモニターで見ることができます。審査員や応援者は、モニターの前で調理の様子を目の当たりにしながら、専門家によるトークセッションの解説に耳を傾けていました。
1時間の熾烈な闘いが終わると、準備された給食を、審査員がまず味見します。審査員は、栄養教育や料理の専門家に加え、生産者や保護者、3人の子供審査員らを含めた19人で構成されています。作られた給食の献立は、4次審査までをパスした文科省の栄養基準を満たしたもので、しかも実際に学校給食で提供された実績のあるものです。その上に見た目もおいしそうで、献立名も「ぴかぴかピーマンの肉詰め」や「畑の恵ぎゅぎゅっとコロッケ」、「はたはたのうまみしょっつる焼きそば」など、楽しくて食欲をそそる表現が工夫されていました。
一般の見学者にも、味見用のプレートが用意されていたので、実際に食べてみました。ほんの少しずつでしたので、全体の食感やバランスまでははっきりとわからなかったとはいえ、それぞれの献立にぴりっと光るものがあり、実際にレストランで出されたとしても美味しくいただける、力作ぞろいでした。子供向けの給食でありながら、さまざまな調味料も駆使していて、丹波篠山の給食センターの「天内いも入り根菜ぼたん汁」には、地元で育てられた猪肉入りの野菜汁に赤だしと山椒の風味が効いていて、一品としてきちんと食べてみたいと思わせる味となっていました。

 


残り時間わずか最後の盛り付けまで2人の息の合った連携が続きます

 

 

【成績発表と表彰式】

審査委員が審査を終えた後、授賞式は場所を移して、東京駅に隣接したKITTE内にあるJPタワーホールで行われました。下位の賞から順に発表が行われ、優秀調理員が選ばれる賞もありました。優勝は、昨年に続き丹波篠山市立西部学校給食センターでした。このチームは、女性の栄養教諭と男性の調理員のペアで、食育授業コンテストでも最優秀賞を受けました。「丹波篠山黒豆ごはん」「寒ざわらのデカンショねぎソース」「ふるさと野菜のゆずマヨネーズあえ」「天内いも入り根菜ぼたん汁」といった献立は、丹波篠山の特産品を存分に使い、栄養たっぷりでありながら味にも変化と工夫があり、納得の受賞ではないかと思いました。

 

今回の「全国学校給食甲子園」に、ささやかなお手伝いとして参加しましたが、今回で14回を迎えるこの取り組みが、大きな成果をあげているのを感じました。私たちのころの昭和の給食は、ほんとうに定番のやきそばや揚げパンやカレーライス、ご飯もべちゃべちゃの、袋に入れてお湯で温めたようなレトルト品がたまに出る程度でしたが、それに比べると現在の精鋭校の給食の献立には、隔世の感があります。
なによりも、給食に携わる栄養教諭、調理員や生産者の皆さんの熱い思いと、生徒を思いやる暖かい心が随所に感じられて、涙腺がゆるむこともしばしばでした。今回のコンテストに参加するにあたっても、参加ペアが調理練習を何回も繰り返すのを、給食センターの皆さんが一丸となって、夜遅くまで協力してくれたそうです。

 

「全国学校給食甲子園」が始まったのには、2005年に制定された文科省の食育基本法、および栄養教諭制度の創設が発端となっています。
主催者である「特定非営利活動法人21世紀構想研究会」は、子供たちの健康と成長を願って、2006年にこの大会を創設しました。
日本全国の学校や給食センターに、1万2千人の栄養士を配置し、日々栄養基準を満たした献立を考え、それぞれが毎日手作りをしている、という日本の学校給食は、世界でも例のない取り組みであり、日本が世界に誇れるひとつの成果だと思われます。
少し前にネットで拡散された動画にも、幼い児童たちが白いエプロンや三角巾をつけて、大きな寸胴鍋をおぼつかない足取りで運び、それぞれの器に盛り分けて配膳し、仲良く並んで「いただきまーす」の号令と共に楽しく食べ始める様子が映っていて、その動画が世界中で拡散されていました。コメントを読むと、他国では、給食は調理業者が作って配膳も当然業者がやるので、このように子供が配膳に関わって、見た目も美味しそうな給食が食べられるというだけで、驚きだということでした。
また、給食の現場にも立ち会ったことのある元管理栄養士の母に言わせると、以前は栄養士が栄養教諭という立場を与えられておらず、教諭より一段低い位置だったために、発言権も限られ、働きも制限されていたけれど、栄養教諭制度の創設によって同じ職位になったことで、様々な良き変化が起こったのではないかということでした。
栄養教諭制度が始まって15年近いですが、今では栄養教諭が教頭や校長にまでなっている学校もあるということで、食育の現場もより働きやすくなっている状況が見られます。

 

「地産地消」が食品業界のトレンドワードとなって久しいですが、それをよりダイレクトな形で実現できる学校給食には、大変重要な役割があると思います。
食育の場として、また昨今問題になっている貧困児童の栄養補給の生命線としても、存続、発展させる必要を痛感いたしました。
その上で、この「全国学校給食甲子園」に、もっともっと多くの学校・給食センターが参加し、食育や文化について考える機会が増えることを願っています。

 


優勝(株式会社日本一賞)を手にした兵庫県丹波篠山市立西部学校給食センター栄養教諭・田端廣美先生と調理員の出野年紀さん

(写真左から)21世紀構想研究会アドバイザーでノーベル生理学・医学賞受賞者である大村智先生、株式会社日本一代表取締役会長の染谷幸雄さんと銭谷眞美全国学校給食甲子園実行委員長から祝福をおくりました