Blog食育交歓

第6回食育シンポジウム 報告(前半)

       ITでつなぐ学校給食の未来

     パネリスト  岡田小野江(新潟県妙高市立新井中央小学校 栄養教諭)

       〃    川原昌士(岐阜県高山市学校給食センター 栄養教諭)

       〃    加藤祐望(東京都台東区立千束小学校 栄養教諭)

     モデレーター 馬場錬成(モデレーター 21世紀構想研究会理事長)

 

峯島朋子(全国学校給食甲子園事務局長)  本日のパネリストをご紹介させていただきます。 新潟県妙高市立新井中央小学校(4月より上越教育大学附属小学校)の栄養教諭岡田小野江先生、岐阜県高山市学校給食センターの栄養教諭川原昌士先生、東京都台東区立千束小学校の栄養教諭加藤祐望先生です。モデレーターは21世紀構想研究会理事長、馬場錬成でございます。

馬場 最初3人のパネリストの先生方から、1人10分間ずつプレゼンテーションをしていただきます。 岡田先生、川原先生、加藤先生の順でお願いします。

岡田  QRコードを活用したお便りと食育の可能性ということでお話したいと思います。 私は情報機器やICTに強いわけではありません。QRコードを取り入れたことによる家庭との連携の強化の可能性を見いだして、試行錯誤している段階です。

 

妙高市は新潟県の南西部に位置し、この写真の左上に見えるちょっと雪の積もっている山が妙高山です。妙高はたくさん雪が降ります。ただ道路は除雪がゆきとどき、通勤も車で問題なくすることができます。妙高は発酵食品が食べ継がれてきていますが、辛味発酵調味料の「かんずり」は全国的にも有名です。3年生が秋に唐辛子の収穫体験をし、その後塩漬けされた唐辛子を雪の上でさらす「雪さらし」という体験を行っている写真です。冬はビニールハウスで野菜を栽培し、今は野菜の栽培が終わり、米作りに切り替わり始めている時期です。

 

 

本題に入ります。皆さん、給食だよりや食育だよりなど、外部に発信をするお便りの作成は好きでしょうか? 私はお便りの作成が苦手でした。読んでくれるのかな、こんなこと書いてもいいのかなという不安と、自分自身の意識の低さがありました。 そんな中、自分の自己研鑽のために開催している自主セミナーで様々な先生方と出会い学び合う中で、お便りは一方通行にしてはいけない、もっと自分らしく作成してもいいのだ、という意識に変わっていきました。そして、読んでもらえるお便りを心がけるようになりました。

 

 

これは令和5年の当校の食育だよりです。この裏面に献立表が記載されています。A4両面カラーで児童配布されています。私自身、読み手からの反応が欲しいという思いから、このような形で右下の欄に「ご家庭からの声を聞かせてください」というコーナー設けてみました。

結果は誰からも反応はありませんでした。そもそも、裏に献立表が記載されているため、誰も切り取りません。この反省を生かして、読み手が手軽に参加できるアンケートフォームに変えてみました。

 

 

こちらが9月号です。 ここで初めてGoogleフォームで質問を作成し、QRコード化したものを貼り付けました。先生方の多くは、アンケートフォームをすでに活用されていると思います。実際このQRコードを読み取ると、このような質問が出てきます。

質問の一つ目はクラスや保護者を選択します。質問の二つ目は、「お便りみたいよ」と意思表示をしてもらう質問です。三つ目は回答必須を求めず、お便りの感想や夏休みに家で作ったことなどを自由に記述にしました。

結果は、1人の児童からの反応がありました。たった1人ですが、とても嬉しく、「もっと伝えたいことを栄養教諭の目線で自由に書いてみよう」という思いに変化していきました。

妙高市は自然豊かな地域であり、生産者との協働を大切にしています。トマト農家さんとの出会いを通して学校給食でできること、子供たちや保護者の方に知ってほしいこと、一緒に考えたいことを給食だよりのお便りとして作成しQRコードを貼り付けました。

 

前回よりも多くの反応がありました。 これは回答してくれた人の学年や保護者です。 自由記述の欄には、我が家の取れすぎて困ったトマト料理を紹介してくれたり、「食育だよりを読んで勉強になったよ」という反応があったりと、様々な声が届きました。 この反応を食育の充実に繋げられるのではないかと思い、お便りを通したICTの活用の可能性を感じました。

 

 

QRコードを取り入れたお便りは、毎月続いています。 効果的だった事例を紹介します。 妙高市は「たけのこ汁」という郷土料理があります。本年度はたけのこ汁を提供する 6月に合わせて、事前にたけのこ汁の思い出エピソードをQRコードでアンケートで募集をしました。 アンケートで集まった思い出を、校内の食育掲示板で共有しました。

今までは給食でたけのこ汁は郷土料理であると伝えたり、姫タケノコの皮むきを体験したりするだけでした。しかしお便りのQRコードを活用することで、子供だけでなく保護者もたけのこ汁の思い出を語る場が生まれ、家庭との食育の連携が形になりました。

 

思い出を校内の食育掲示板に掲載すると、子供たちが立ち止まり、保護者や地域の方、先生方も、この掲示板に足を止めて読んでいました。QRコードを活用したお便りから給食を越えた食育の広がりを感じることができました。

QRコードを活用した保護者との食育の強化は、まだまだ始まったばかりです。保護者も子供も手軽にできるメリットを生かし、これからも魅力あるお便りを発信し、楽しい食育を充実させていきたいと思います。

 

馬場  続いて川原先生、お願いいたします。

 

 

川原  大規模センターでのITを活用した日々の業務・食育について発表させていただきます。高山市について簡単に紹介します。高山市の市役所のバックに見える北アルプスの乗鞍岳。高山は、小京都と言われるように古い町並みも残っています。多くの観光客が足を止めて写真を撮るスポットも多数あります。4月14,15日には、春の高山祭が行われます。

 

 

高山市は、人口が大体8万2000人、面積が東京都と同じぐらいで、日本一面積の大きな市です。この広大な高山市の学校給食は、高山市が直接運営している5つの施設と、一部事務組合という形で隣の市と一緒に運営している施設が1施設あります。

 

私が勤務しているのは、高山市学校給食センターで、高山市の中心部にある給食センターです。 ここでは、県立の特別支援学校2校と、高山市立の小学校12校、高山市立の中学校6校合わせて5700食程度の給食を作っています。アレルギー対応も画面に示した9品目について、対応食を提供しています。在籍している栄養教諭は、私を含めて3名です。

小学校12校と中学校6校合わせて18校を、3人で回るのには限界があるので、近隣の給食センターに在籍している3名の栄養教諭等にも手伝っていただいて、給食指導などを行っています。

 

 

今日の内容は、ITを活用した日常業務の効率化と、ITやICTを活用した食育という内容で話を進めます。

ITを活用した業務の効率化です。衛生管理等で使う書類には、カレンダー形式で、土日には色をつけてといった書類があり、日付を入力し土日は赤く色をつける作業は、時間がかかります。それがエクセル関数と条件付き書式をうまく組み合わせて、西暦を打ちさえすれば1年分の枠に反映できるようなものを作りました。

 

 

1つのデータを複数の帳票で使う時間短縮も実現しました。献立を紹介する放送原稿と検食簿の献立名は共通なので、放送原稿に打った内容をコピペすれば検食簿に飛ぶというエクセルを作っています。

 

 

 

アレルギー対応でも、アレルギー対応者のデータベースと、その月に含まれているアレルゲン、献立名を入力すれば、個別の対応表や、学校に送る一覧表、対応食のチェック表、児童生徒の食札が一括でできるファイルを、市の職員が作りました。大幅に時間短縮できました。ITをうまく活用していくことで、時間短縮と正確性というところが担保できるようになりました。

 

 

続いては、ITとICTを活用した食育について話します。これまで食育で使う資料は、例えば画用紙や模造紙に手書きしたり、パソコンでデータを作り、プリントアウトしたものを、紙に貼り合わせたりという形で資料を作っていました。

文科省のGIGAスクール構想によって高山市は各教室に電子黒板が導入されました。これにより写真や動画を取り入れた資料を使って、食育をすることが可能になりました。

 

 

給食の時間の指導も、給食センターでパソコンで資料を作ったものをメールで学校に送ったりCDに記録して持ち出したり、記録を収納したタブレット端末を持って学校に向かいます。教室では、タブレット端末を電子黒板に繋いだり、CDやメールで飛ばしたデータを電子黒板備え付けのパソコンに読み込ませたりして、表示をしながら指導するという形に切り替わってきています。

 

 

続いては、小学3年生の「おやつの取り方」という学級活動を話します。このような授業は、これまでは、担任の先生依頼してアンケートを作り、児童の回答結果を集計し、グラフを作って印刷して資料作成していました。

しかしGoogleフォームを使えば、画像付きのアンケートを作ることができ、子供たちが回答を送信した時点で集計までできます。集計結果も、グラフ形式で出てきますので、簡単に資料まで作れます。大幅な時間短縮になりました。

 

 

もうひとつ、給食試食会での保護者向けの講演の事例です。講演は、栄養教諭が一方的に話すことが多く、参加者の中にはつまらないと感じている方もいたと思います。そこで、メンチメーターというリアルタイムで参加者とアンケートの集計結果を共有できるオンラインサービスを導入してみました。

 

 

スライドの1枚目にアンケートに飛ぶQRコードを示して、講演の冒頭で参加者にQRコードを読み込んでもらい、すすめていきます。 例えば、「今日のメニューの期待度は」といった質問を投げると、集計結果が画面に表示されます。クイズ形式にすることもでき、「今日の給食に使われてるお米の品種は何でしょうか」と選択肢を示し、参加者に答えてもらうとしばらく後に正解が表示されます。

クイズの正答率をもとにランキングを表示させることもでき、楽しく参加できる内容になっています。 講演の最後には、「感想を簡単に入力してください」という質問を参加者に投げかけます。すると参加者同士がどんな感想を持ったのかを共有することができ、双方向の食育、保護者向けの講演会ができます。

 

 

なぜ日常の業務にITとかICTを活用するのかといったら、時間短縮だと思います。時間が生まれることによって、新メニューの開発や、教材研究に使える時間が増えます。そうすることで、学校給食とか食育の充実に繋がると思います。IT・ICTを使うことで、魅力的な指導資料を作ることができ、食育や学校給食の充実に繋がっていくと考えています。ITとICT手法にアナログ手法もうまく組み合わせながら指導を行っています。以上です。

 

馬場  ありがとうございました。一つだけ関連の質問でお聞きします。指導の実施体制ですが、小学校12、中学校6校、これを高山センターの栄養教諭3人と近隣センターの先生が担当となっていましたが、近隣の先生方は、自分たちが所属している施設があるわけですから、そこの業務を兼務する形でやるということでしょうか?

川原  給食指導に関しては、その担当の栄養士が年間指導計画に基づいて自由に喋っていい形にしているので、そこはもう受け持ってもらった先生方がその月の目標に合わせて喋りたいことを喋ってもらう形になってます。

馬場  続きまして東京都の加藤先生、よろしくお願いいたします。

 

 

加藤  ICTを活用した食育動画についてお話をさせていただきます。栄養教諭として勤務をしておりますが、東京都は栄養教諭としての採用はありません。始めは学校栄養職員として勤務をして、その後に任用替え試験を受けて現在に至ります。勤務校は浅草にあります。浅草寺、雷門、日本最古の遊園地「花やしき」、酉の市で有名な「鷲神社」、を思い浮かべると思いますが、いずれもそ本校から徒歩圏内にあります。また今年の大河ドラマ「べらぼう」の聖地にもなっております。

 

 

子供の数は200名程度で周辺に田畑は全くありません。 給食は自校方式で、調理員6名と栄養教諭1名で給食管理をしております。本日は特に、食育動画についてお話をさせていただきたいと思います。

 

 

多くの先生がこのような給食のメモを作られている方が多いかと思いますが、本校ではこちらにQRコードを掲載しております。こちら読み取りますとPDFファイルが開き、給食メモを電子黒板に映して読むことができます。 こちらを映すことで、目と耳の両方でメモの内容を確認できるようになっています。

 

 

食育動画ですが、コロナ禍から作成をスタートしました。始めはパワーポイントを使って作成していましたが、途中からアプリを使った動画を作成に切り替えました。しかし、給食時間に先生方や子供たちに見てもらうことは定着しませんでした。動画の保存が難しく、忙しい給食時間に先生方に活用していただくことはできませんでした。ところがQRコードを読み取るだけなら、給食時間にできると思い、もぐもぐ通信に動画用のQRコードを載せたところ、一気に活用率が上がり、令和4年度の半ばぐらいには視聴が定着しました。

 

 

動画を作ってアップロードし、それ専用のQRコードを作り、もぐもぐ通信に載せ、紙ベースにして給食が始まる前までに配るというのを毎日するのはかなりの手間がかかったので、動画が定着し始めた頃に、思い切ってQRコードを廃止しました。 それでも、年度が変わろうが、異動があろうが、動画の活用は100%を継続しております。

 

 

現在はInshot(インショット)というアプリを使って動画を作成しています。アプリで編集して、Teamsにアップロードし、そこから先生方にアクセスをしていただいています。一日の動画作成の流れになりますが、まず献立作成の時点でこの日何を伝えたいかというのを大まかに考えておきます。各教科と関連した内容も動画で載せたいので、献立立てるときに先生方に各教科の進行具合の確認を取っています。

 

 

当日は11時ぐらいまでに動画を撮影して資料を集めています。給食室の様子ですとか食に関する授業をやっているところがあればそちらの様子を撮影して動画に活用しています。スムーズに撮影ができるように、先生方の週案を必ず毎週チェックするようにして、この時間にこの学年がこういう授業をしているというのを把握するようにしています。 資料が集め終わったら、給食管理をしながら動画を作成して、給食時間までに動画をアップロードしています。

 

 

動画作成の際の留意点になります。動画時間は2分半から5分以内に収めるようにしています。 短すぎると子供から「短い!」と文句が出ますし、長すぎると子供たちの食べる手が止まって、喫食に影響してしまうので時間にも気をつけています。

二つ目は、提供している目の前の給食と切り離さないということで、子供たちが食べているものと結びついた内容にしています。三つ目は、動画の長さを入れるということですけれども、本校では毎日放送委員の子が給食時間に放送していますが、そこと動画が被ってしまうと、せっかくの委員会活動が台無しになってしまうので、放送が始まる前までに視聴が終わるように、動画を再生し始める目安にしていただいています。

最後に、重要なことだと思うのですが、動画は一方的に情報を与えがちになるので、子供たちに問いかけるか自分ごとになるような仕組みを作って、子供が考える余白を作るように意識をしています。

 

 

動画の良い点は、子供たちが受け取る情報量が多いこと、どの学年も一斉に、平等に食育を行うことができることです。給食時間には、低学年に動画の内容が難しいと思ったら栄養教諭が補足をしに行ったり、逆に高学年にはちょっと内容が物足りないと思ったらプラスアルファのお話をしたりできます。

また台東区は田畑がないため農家さんとの交流がほとんどありません。私の方が農家さんの方に訪問をし、てその声を子供たちに直接届けることができるのも良い点だなと思っております。

 

 

動画による食育の課題です。やはり、食べる手が止まってしまうので、動画時間の考慮が必要になること、あとは毎日動画を作成しているのでマンネリ化しやすいという点です。そのため、音声クイズをしてみたり子供たちを登場させてみたり、先生方にも話してもらったり、いろんなパターンを作成しています。

また、校内の自然も取り入れるなどして、子供たちが身近に感じられる内容にすることも心掛けています。どの学年も同じ内容を見ることになるので、1年生には難しかったり、6年生には簡単すぎたりということがあります。教科と関連した内容を定期的に食育動画に取り入れているのですが、学年で学習するとき、動画で先に知っている分、驚きがなくなってしまうと言われたことがあります。そのため、授業内容を動画で取り扱う際は、先生方に確認をしながら動画作成を進めています。後ほど、本校で関わりが深いねぎ屋さんと共同で栽培をしている長ネギについての動画を紹介させていただきます。

 

馬場  3人の先生方から大変魅力的な現場の報告が出されました。先生方の発表内容の最大のキーワードは、QRコードでした。もちろんそれだけではなく、様々なアプリ機能を活用しながら、学校給食と食育授業を立体的に楽しくためになるものを実現していました。

報告(後半・パネルディスカッション)へつづく