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第5回食育シンポジウム「食育の情報発信を考える」報告・後半

第5回食育シンポジウム「食育の情報発信を考える」

後半 パネルディスカッション)

パネリスト
松岡珠美(熊本県熊本市立西原中学校 栄養教諭)
黒川夕美(広島県福山市立川口東小学校 栄養教諭)
向井未来実(埼玉県本庄上里学校給食センター 栄養教諭)
吉成勝好(新聞教育支援センター代表)
モデレータ
馬場錬成(認定NPO法人21世紀構想研究会理事長)

 

学校・給食センター それぞれに現場の悩み

馬場        4人のパネリストの方々からプレゼンテーションをいただきました。広島県の黒川先生、熊本県の松岡先生は学校現場そのもの、埼玉県の向井先生は大規模給食センターからの現場報告でした。3人の先生方、現場を抱えていますので、日々苦労があると思いますが、何に一番苦労なされているのでしょうか。

黒川        先ほどの吉成先生の話しにもあったのですが、ネタ、題材、内容の精選と、タイムリーな発信というところです。

松岡        事実を見たまま聞いたままただ発信するのではなく、それをどのように食と関連させて、受け取る人のフードリテラシーの向上につなげるのか。私たちは栄養教諭、管理栄養士として、そうしたことが大切な使命になってくるので、そこが苦労するところかなと思っています。

馬場        だいぶ高度な意識を高く持ったところの苦労じゃないかと思いました。それでは埼玉県の向井先生。

向井        限られた時間の中で、こちらが伝えたいことをいかに相手に伝えられるか、そうしたことを考えることでしょうか。

 

進歩の陰で格差拡大も

馬場        話を変えて、10年前の食育だより、食育通信、あるいは学校給食だより。そういう活動と、今現在の活動を比較した場合に、はたして進歩しているのでしょうか。

吉成        10年前よりも、すごく進んだよい面がある一方で、落ち込んでいるところもあります。地域格差、学校格差が広がっているのが落ち込んだ点だと私は思います。言い換えれば、食育情報の発信格差。栄養教諭がいる学校は、皆さん素晴らしい実践をしています。ただ栄養教諭の普及率は全国的にはすごいばらつきがあります。同じ県や市の中でも栄養教諭が配置されているところと、配送校の給食センターから情報がただ配られるところでは、情報の質も量もすごく違いがある。ばらつきを克服して、どう食育をレベルアップするかが大きな課題ではないかなというふうに思いました。

 

食のおもしろさ重要性を伝える企画力

馬場        ところで、食育情報発信には、企画力と取材力というのが非常に重要であるということが指摘されてきましたが、企画力というのは何を意味するのか。現場の先生方、企画力と言われるとなんとなくわかると思うんですけれども、何をどういう形で伝えるのか。どんなことを心がけてやっているか、松岡先生いかがですか。

松岡        やはり、子どもたちに何を学ばせ、目指させたいのかをかなり意識して情報発信はしています。食に関する指導の年間計画を組み立て、押さえるべきところを押さえながら・・・と。

馬場        先生のところは中学校ですけれども、具体的にこういうことで企画力を伸ばしたいとか、そういうことがございますか。教科とか授業、あるいは食育のイベント、年間行事とか、そういうカテゴリもございますけれども。

松岡        今のところ、ホームページのほうではまんべんなくやっていて、開けば何かが出てくるといった感じになっているので、カテゴリ分けをしていません。発信する側も漏れなく情報を発信できるし、受け手のほうも受け取りやすいので、カテゴリに分けていくことも大切なのかなと思います。

馬場        黒川先生。題材の厳選とタイムリーな発信に大変ご苦労されているということですけれども、題材の精選、厳選。これは企画力にも絡みますが、どのようにお考えでしょうか。

黒川      本校、私が初めての栄養教諭の配置校でして、それまで、食に関する情報発信というものがあまりなされていませんでした。

 

食にあまり興味・関心がないということもデータでわかりまして、まず企画力としては、食は面白い、楽しいものがあるよというところを伝える。自己肯定感も少し低いというデータもあり、通信等に、児童の頑張りぶりを掲載することで、課題を改善、解決していきたいと思って取り組んでいます。通信に関していえば、子どもたちの姿を保護者にも伝え、家庭での実践につながるように、内容を精査して言葉も選ぶように意識しています。

馬場        給食センターでおやりになっている向井先生。給食センターの食育の情報発信というのは、全国的にはまだ成熟したところまでいっていないと思うんですね。単独校の食育情報発信というのは、それなりに成熟してきましたが。センターになると、複数の学校に情報発信しなければなりません。小学校、中学校と児童生徒が入り乱れている。限られた栄養教諭が複数の学校を担当する。こういう難しい点に関して、何か企画をするというようなことは考えておられますか。

向井        給食センターということで、やはり児童・生徒との距離がちょっと離れがちになってしまいます。それで、つくっている人とか、食材などのことをより身近に感じてもらいたいという思いがあります。自分たちが食べている給食に関してそうしたことを意識して情報発信しています。

馬場        食育の情報発信で、たとえば担当されている学校栄養士4人ですり合わせをしたり、ミーティングしたりというようなことは日々おこなわれているんでしょうか。

向井        それぞれの所属校の実態を共有し合ったりとか、授業に行ったときの児童生徒の様子を共有しあったりしています。たとえば、この学校はこういう状況なんだねとか、そういう話をして、自分の学校以外の学校のことも知るようにしています。

 

感性を取材力につなげる

馬場        吉成先生からも指摘されていますけれども、外部に発信する通信、情報発信の中で、人を引きつける見出しをつけたらどうかと。あるいは、食育通信というのは画一的なので、もぐもぐ通信とか、新しいユニークな題字をつけたらどうか。それから、わかりやすくて理解がすぐできるような表現力、文章力。こういうことに関して、何か工夫をしていることがありましたら、どうぞご発言をお願いします。

黒川        ネタということでは、やはり年間指導計画で学校の中でどの学年がいつ何を学習するのか、食に関する学習はどうなっているのかというところを踏まえて、各学年の担任と連携をしています。学年ごとの一般的な通信と食の通信とのダブルで発信。さらには、ホームページからの発信ということで、保護者の方には畳みかけるように同じ内容について情報を見てもらえるようにということはしています。食育通信にどのような内容が掲載されているかが学校内で共有されると、担任のほうから今度こんなことやるんだけれども・・・と声をかけてくれるような場面もあり、それでまた内容が増えていくということも、実態として起こっているというところです。

松岡        まず取材力ですが、自分の感度とか感性を磨いておかないといけないと思っています。

 

この子はこういうふうに今困っているとか、そういったところを、栄養教諭としてちゃんとキャッチできるといったところが取材力につながるのかなと。栄養教諭として私も年数踏んできたので、感度もけっこう磨かれてきたのかなとは思います。

食育通信のテーマ、題名については、前の小学校勤務のときは、「エイエイヨウ」とか「セイトゴセイ」とか、いろいろ名前を変えて通信を出していました。中学校に来てから、ちょっと硬派になろうと思って、あえて明朝体で食育だよりというふうに書くように変えました。硬派な私の通信で、しっかり子どもたちが情報を受け取ってくれたらいいなと、自分のキャラ替えをしてみたところでした。

馬場        松岡先生は、徐々に進化してきているというふうにもうかがわれますね。吉成先生、多角的な取材なくして良き発信なしというようなことを話されましたが、取材する力というのはどうしたら養われるか。先生の立場からアドバイスをお願いします。

 

大テーマを念頭に身の回りの素材発掘

吉成        これはもう場数を重ねていく以外ないですね。食育だよりには取り上げたい大テーマがありますよね。年間計画で、フードリテラシー、食の活用力とか、たとえば文科省・厚労省・農水省が定めた「食生活指針10項目」などですね。それはいつも頭の中に入れておいて、この大テーマから小テーマ、自分の学校や子どもたちがどうか目で見る。減塩が重要だとすると、減塩について一般的なことはいっぱい書かれていますが、「うちの学校の子どもは?」、「うちの学校の保護者の生活はどうか?」という目で見ると、減塩と自校が結びつきます。

大テーマを常に頭に入れておいて、周りを見ていったときに、具体と普遍が結びつくような取材ができるんじゃないかなと。その後はもう場数を踏んで、失敗しながらやっていく以外にないと思いますけど。でも、皆さんはもう十分取材力があると見ています。

馬場        私の感じからいうと、たとえば見出しのつけ方は、10年前あるいは数年前に比べると、最近の先生方の学校給食だよりなどの見出しはだいぶこなれて、進歩してきていると思いますね。

吉成        そうですね。今はけっこうこなれて。とくに黒川先生の見出し、本当に感心しました。「揚げパンの日がやってきた」、「めざせ3つ星シェフ!」、「きゅうしょくしつからの挑戦状」、どれも素晴らしい見出しですよね。ちょっとお聞きしたいのが、先生が考えたのか、皆さんとこうしようかなどと話し合いをしているのか。

黒川        私の場合、本当に自分の思い付きなのですが。本であったり、テレビであったり、そういえばこういう面白い言葉があったなというところで、自分の通信と重なる部分で言葉を拾い上げて選んでいます。

馬場        とくに最近はタブレットとかスマホで電子情報が氾濫。動画や漫画など、日々様々な言葉が飛び交っていて、子どもたちは大人よりもはるかに早い感性で受け取っていますね。大人が子どものセンスを逆にパクってきて反映するセンスがあってもいいと思いますけれどもね。どうですか、吉成先生。

吉成        いいですよね。子ども給食委員がいますでしょ。彼らに、「これどうかな?」 なんて聞くと、けっこういい案を出してくれると思いますよ。今の子たちは非常にセンスがありますから、大いに利用するというか、学ぶといいんじゃないかなと思います。

 

大人目線の現場に子どもの視点も

馬場        今教育現場で一番反省点になっているのは、これまであまりにも上から与えすぎてきたと。自主的に考える力を逆に大人が奪ってきていた。こういう反省点が非常に支持されています。学校によっては、職員会議に生徒代表も入る学校も出てきております。もちろん職員会議全部に出すわけではなく、ある一つのテーマで討論する場合に、ここに生徒代表も入れちゃおうといって入れる。今お話になっていることは、今後の食育教育でも、間違いなく変わっていく観点になるだろうと思います。

吉成        献立会議に生徒が参加している学校がありますね。小中学校でも、大いにそういうことも必要だなと思いますよ。

馬場        コンテストもありますよね。児童生徒から出されたレシピのコンテストをして、非常にいいものをみんなでつくろうといったこともあちこちでおこなわれていると思います。それでは、向井先生は共同給食センターで、単独の学校とは違った悩みがあると思うんですけれども、食育、情報発信のターゲットをどうされているのか。児童生徒が第一。それから二つ目は保護者、三つ目は教職員、四つ目は一般社会人。給食センターは、この中で一番のターゲットとしてどの発信先を重視していますでしょうか。

向井        まずはやっぱり子どもたちですね。

 

児童と生徒に向けた情報発信に力を入れたいと思っています。給食センターができることは限られていますが、情報が学校や家庭などにも役立つよう願っています。

馬場        紙ベースの「給食だより」「食育だより」の他に、ホームページでも情報発信されていますが。業者さんに頼んでホームページをつくってもらうのでしょうか。

向井        はい。ホームページの更新の管理ですとか、そういうのは、ホームページ作成の会社に依頼して、つくってもらっています。こちらでこういうものを載せてくださいとか、こういう形にしてくださいというのをお願いして。

馬場        そうすると、センター側の思惑やお願いと、受け取ってホームページに反映してくれる業者さんとの間はうまくいっていますか。そこが一番大変なんじゃないかと思いますが。

向井        そうですね。こちら側の思いがそのまま直接伝わっていなくて、違う形で載ってしまったりしたこともあります。

馬場        何か解決策がありますか。こういう悩みは、学校・センターに限らず、各地でホームページ運営を外部業者に依頼した場合には必ず出てくる問題なので、お聞きしますが。

向井        まず、こちらの思いをちゃんと汲み取ってやってくれる業者を選ぶということ。あとは、こちらで伝えたいことを誰にでもわかるようにメールとか電話できちんと伝えられるというのが大事かなと思います。

 

情報環境激変期の食育・給食発信

馬場        世界的に問題になっているChatGPTをはじめとして、世の中は想像を絶する速さで変わってきております。当然教育現場も変わるし、学校給食の情報発信現場にも影響してきます。さて、情報発信方法のカテゴリは大きくわけて、紙媒体とネット(あるいはWeb)に分かれます。ネット情報に関しては、高齢者はなじみにくいなど年代によってその受容に差があります。しかし、いずれにしても紙とネットの双方を意識した発信を心がけざるをえませんね。松岡先生は両方とも大変多角的に発信しておりますけれども、そのへんはどのように整理していますか。

松岡        紙でやるメリットというのは、配ってすぐ目にしていただけるといったところがあるし、献立表などは貼ってもらいたいなと思うんですね。朝からちょっとチェックしてから学校に来てもらいたいなというのがあるので、紙は譲れない。それ以外の通信では、Webのほうが便利な面があります。今たぶんお母さんたちもスマホを持っていて、学校からのメール配信と一緒に、必ず食育情報局随時更新中などと入るようになっていたり・・・。中学生にはとくに、紙のお便りよりもWebのほうの情報が確実に届くのかなというふうに感じています。発信する側もけっこう簡単なので、気軽に発信できる。そういった感じでWebと紙の棲み分けをやっていこうかなというふうに思っています。

馬場        今会場から、Webとそれから紙媒体の情報発信の違いということで、メリット、デメリットがあるんじゃないかという質問が来ています。紙とWeb、ネットのメリット、デメリット。松岡先生、何かお考えはありませんか。

松岡        私が考える紙のデメリットですけど、配布人数が多いと印刷の時間がだいぶかかるので、他の事につかいたい貴重な時間を取られて相当のストレスになります。とくに献立表は裏表印刷しているので、梅雨時期になると、印刷機がうまく回らないことも多い。膨大な枚数をずっと機械2台使って印刷し、それをクラスごとに分けて配布して・・・といったところの負担感がとても大きいです。

馬場        かといって、各家庭、あるいは受信先で全部やれというわけにもなかなかいかないですよね。ダウンロードしてプリントするにはそれなりのスキルが必要ですから、画面で読んでもらうだけというわけにもいかないだろうし。画面で読んでもらって終わりというのが一番簡単なことなんですけれども。黒川先生、いかがですか。

黒川        今勤務しているのは小学校なので、低学年についてはまだタブレットの扱いにも慣れていません。そのため、紙が中心になります。子どもたちは、自分たちのことも載っている給食関係のお手紙(通信)を見ながら家に帰って家族に届けることで、お兄ちゃん、お姉ちゃんになった気分を味わうという効果もあると思っています。高学年になると、反対に、タブレットに慣れて、活用もできるようになります。小学校については、発達段階ということも考えていかないといけないのではないかというふうに思います。

本校のホームページのアクセス数を見ると、まだそれほど多くはないので、やはり紙媒体は必要なのかなと。その学校の実態というところも考えながら、必ずこれは保護者に見てもらって、返信が必要というものについては、絶対紙媒体というところもあると思います。いずれにしても、この情報については紙にURLを載せて、画面確認だけでもいいのか・・・など、情報発信のありかたを整理していかないといけないのかなと、今お話を聞いていて思っています。

 

QRコードの活用は普及するか

馬場        最近、印刷物がQRコードとマッチングさせて、ネット画面に飛んでいくという方法がかなり普及してきましたよね。QRコードが1本の細長い棒になるのではないか、あるいは言葉になるのではないか。マウスでそこのところをなぞると自動的にネットにジャンプしていくと。こういう技術も特許の世界では出たりしておりますので、QRコードからさらに進化したものがこれから出てくる可能性はあると思います。さて、吉成先生。どのようにしていったら、情報発信に効率的になるか、ご意見をお願いします。

吉成        今はある意味、過渡期だと思います。馬場さんが言われたように、どんどん技術は進歩しています。もうすぐいろいろなことができると思いますけども、今の混在状態はしょうがないですね。ネット環境がない人もいますし。ただ、その中でいかに連携するか。私が一番具体的に連携できるなと思っているのは、たとえば献立表ですよね。献立表、先ほど冷蔵庫に貼ってと言いましたけども、二極化しているんです。非常に簡素化して、イラストで書いているところと、細かくアレルギーとか、カロリーとか、栄養素とか書いてあるものもある。一般の人はそんなに求めてないので、本当にシンプルな献立表をイラストでまずつくって、詳しく知りたい人はここを押せば、詳しいカロリーだとか、アレルギー物質が含まれているとか、塩分量というページに飛べる。そうした形ですごく連携ができる。

 

それと、閲覧率もやはり無視できないですよ。先ほどの、センターで7,000食、8,000食つくって情報を流して、じゃあどのくらいの人が見ているか市場調査すれば非常に少くほとんどの人は見ていないという現状があります。発信したからよしというわけにはいかない。見てもらうためにはどういう工夫をするかというのは、それぞれの学校が工夫しないと。昔のように学校から出たものはみんな見るのは親の義務みたいな時代じゃないので、読んでもらう努力をいかにするかだと思います。

馬場        向井先生。今大規模給食センターはどうかという話も出ましたけど、どうですか。

向井        一応ツイッター(Twitter)とか、あとはホームページを知ってもらうために、毎月の給食だより、献立表にQRコードを載せています。ただ、実際にどれくらいの人がネットを見ているのかをしっかりと把握はしていないので、そのへんも調査できたらいいなと思いました。

馬場        紙媒体にQRコードを織り込んでおくというのは最近よく見かけますが、学校現場にいる黒川先生、松岡先生、肌感覚で、QRコードというのはどのくらい利用されていると思われますか。かなり利用しているのか、あるいはそれほどでもないのか。3割くらいは利用しているんじゃないかとか。

松岡        私もQRコードでピッと読み込めると思って、紙で出す食育だよりにはQRコードを載せたりはしているんですね。だけど、そのときにアクセスはないです。やっぱり学校のメールにURLを載せて、ここを押してねとかにしておくと、アクセス数がガンと上がる。肌感覚では、紙からQRコード経由で読むところまではいってないのかなといったところです。

黒川        私も同じで、QRコードを読み込んでという場面は少ないなというふうになんとなく思っています。なので、先ほどあったように、やっぱりメールにURLを載せたほうが、保護者の方はポチッと押してくださるという感覚があります。

 

食のリテラシーの重要性

馬場        吉成先生。給食リテラシーというように、最近リテラシーという言葉が非常に氾濫しています。古くは科学リテラシーというような言葉から発進したように私は見ておりますけれども。食育の現場もリテラシーということを意識しなきゃならないという時代に入ってきていると思うのですが・・・。

吉成        私が思うリテラシーというのは、学校時代じゃないですね。日本の食育の一つの問題点は、学校で一生懸命やったことが、卒業すると崩れてしまう。ダイエットだとかグルメとかいって、せっかく育ったものが崩れがち。一生貫くようなリテラシーが、学校時代に築けられればいいなと思うんです。ライフサイクルを見通した食育プログラムみたいなのができるとよいと。フードリテラシーという言葉は、こうした課題に一つの名称を与えたこととして、貴重だなというふうに思いました。

馬場        このリテラシーということについてはいかがですか。松岡先生。

松岡        情報として入れて、知識を持つ。こういう食べ物があるんだとか、こういうご苦労があるんだとか、そういった情報を得たうえで、その情報をどう活用するかといったところまで見通しを持って情報発信していかないといけないのかなと思っています。そうしたものが、私はリテラシーかなと。情報を受けただけじゃなくて、その先どういうふうにその情報を活用して、自分の健康のために、さらに食文化をどう継承していくかとか、いろいろなところで自分なりに活用していく。その能力をつけてあげるところまでを見据えていくのが、リテラシー向上なのかなというふうに考えています。

馬場        食育だより、給食だよりで先生方、非常に工夫して、いろいろな情報を盛り込んで、子どもや保護者に理解させようとしている。その努力は、あれを読んでいるとひしひしと伝わってきます。ああいう便りを丹念に読んでいるだけでも、リテラシーは確実に向上すると思うんです。それ以外に、学校現場では総合学習も含めて、家庭科、理科、社会などの各教科でリテラシーに結びつくような授業を日常的にやっているわけですから、子どもたちの食に対する見方、能力は着実に上がってきています。10年後、20年後と今を比べたら、間違いなく10年後、20年後のほうが能力が上がってきていくだろうと思っております。ところで今日は、女子栄養大学の中西明美先生が来場されているようです、中西先生、ちょっと発言をしてもらうことできますでしょうか。

中西        はい。女子栄養大学の中西です。

 

間違った情報を鵜呑みにしない

 

馬場        中西先生を皆さんにご紹介します。先生は女子栄養大学栄養学部の准教授でございまして、つい1カ月ほど前、日本食育学会の学術誌に、中学生における食に関するメディアリテラシーと習慣的な食物摂取との関連という論文を発表しております。読んで大変感銘を受けました。食物を摂取する行動とメディアリテラシーとは非常に関係あるんだということを、内外の論文42本を読み解いて論考を書いております。そういう先生のご専門の観点から見ると、メディアリテラシーに限らず、食に関する、食育リテラシーでも、食リテラシーでもいいんですけれども、こういうことと、食習慣との関連というものは、今後も学術的に非常に注目されて、追究されるテーマなのでしょうか。

中西        今回、松岡先生がフードリテラシーという言葉を使っておられました。私は、元々は学校栄養職員をしていまして、その頃から、子どもたちにリテラシーというものを身につけていかないといけないなと強く感じて、大学院でメディアリテラシーを研究のテーマとしていました。私はたまたまメディアの情報を鵜呑みにしないという視点で研究はしたのですが、松岡先生の使っていらっしゃったフードリテラシーというのは、きっとメディアリテラシーよりもう一つ上の大きな概念として考えられるのではないでしょうか。

食生活リテラシーとかいう言葉で研究をなさっておられるような先生もおられます。子どもたちもいつかは大人になり、自分で食物を選択して日々を送っていくときに、より良い選択ができるようにするためにはどんなことが必要なのか。それらの能力がフードリテラシーとかメディアリテラシーというものだと思っています。具体的にはまだまだこれから研究が進んでいかないといけないと思っています。

情報過多というようなことも、今日吉成先生のお話の中にあったんですけれども、与えればいいというものじゃなくて、より厳選したところで、子どもにどんな知識――要するにそれがリテラシーという言葉で置き換わると思うんですけど、そのあたりをいろいろと先生方と議論をしながら身につけていってほしいと思います。

メディアリテラシーと食物摂取との関連という論文をなぜ書いたかというと、メディアリテラシーを身につけている子どもの食事が良いものなのかどうかということをまず明らかにしておかないと、自分勝手なリテラシーを身につけてしまい、本当に食事の状況が良くなるかわからないと思ったんですね。それで、メディアリテラシーと食物摂取の関連を調べると、リテラシーを身につけておいたほうが菓子の摂取量が少なく野菜の摂取量が多いといった傾向は見られました。今後さらに研究を進めていきたいと思っているところです。

馬場        ありがとうございました。フードリテラシー。これは松岡先生も言っておられますし、また、吉成先生も食育リテラシーとかフードリテラシーという言葉で語っておりますけれども、これが非常に重要なのは、今ネット情報が氾濫している時代だからです。ネット情報は、簡単にいうと、うそ八百の内容のものもあるし、誠に有益なものもある。その幅がものすごくあるわけですね。その中から本当に役立つ真実の情報を理解するという判断力。これが子どもたちにも求められる時代になったわけです。

少なくともそういう情報選択の中でも、一番わかりやすくて入りやすいのが、食べ物のことだと思うんです。生きていくうえで絶対必要な行動で、非常に関心を持ちやすい。現場で、日夜食育に取り組まれている先生方にとって、食のリテラシー向上は非常に重要な位置付けになっていると思うんです。吉成先生、いかがですか。

 

学校ぐるみの取り組みに何が必要か

吉成        給食というと学校では昔から一つの分野、栄養士さんがおいしい給食をつくってくれてありがたいねというレベルの話で、今でたような人生を左右するような生活力のリテラシーという捉え方はなかった。そこで、松岡先生の中学校がすごいなと思ったのは、学校ぐるみでやっておられますよね。職員用の食育だよりも出し、ホームページを見ると、校長先生を中心にして、全職員が食育に取り組むという・・・。こういう学校ってなかなかなく、一朝一夕にあんな体制ができると思わないので、どのようにしてできてきたのかお聞きしたいなと思っていました。

松岡        どうですかね。私一人が頑張ってといったことではなく、校長先生を盾にするじゃないですけど、組織的に動くことかなというふうに思っていて。食育推進委員会というのを校内でつくっていて、何をするにしてもそこを通すようにはしています。「今回こういうふうにやります」とその組織を通すと、じゃあ今からアンケートを取りますとか、組織的な動きにつながります。ただ栄養教諭が頑張っているだけではなかなか動かないところも、管理職が入っている組織がありますので、それを大きな盾にして「校内食育推進委員会の委員長が言っています」みたいなところでガンガン推進していけるかなと。栄養教諭が食育の中心であるべきことは変わりませんが、フォロワーも欠かせません。食と関係のない行事などにも積極的に協力して、学校職員の一人としてやっていくのが秘訣かなというふうに、私は考えています。

馬場      情報発信だけではなくて、組織論にまで広がってきましたけれども、日々活動している黒川先生、校長さんとうまくいっていますか。

黒川        はい。うまくいっています。今日のシンポジウムも、どんどん行きなさい、(オンラインの会議参加を)学校でやっていいからということで、めったに開かない休日に学校を開くというくらい理解をしてくださっています。本校も管理職がとても協力的で、食について発信をするときは後ろ盾にきちんとなってくださいます。また、食育を進めるにあたり、給食の先生方から職員に向けて発言していただくというのも効果的だと考えております。職員会議等で、私が説明するのではなく、給食調理員の先生からご発言いただいて、それを子どもたちに伝えてもらうというところで、給食をつくるうえでの思いをよりよく教員に伝えられているなと感じています。

 

9言語発信で国際化に対応

馬場        向井先生。給食センターは情報発信でも大変ご苦労があるところだと思うんですけれども、組織的に情報発信をする、あるいは食育という教育施策を展開するうえで、何か悩みはありますか。それともこういう課題があるというようなことはございませんか。

向井        給食センターは栄養士だけではなくて、市町の職員の方ですとか、委託の調理員さんなど多様な方が関係しています。子どもたちのために、おいしくて安全で安心な給食を届けたいという思いはみんなあるので、一致団結して情報発信するとか、日々の取組みなどもみんなで協力できればいいなと思っています。組織づくりは給食センターの所長をはじめ、私たち職員で頑張っていかなければいけないなと思いました。

吉成        チームプレーといえば私、給食センターにもすごくびっくりして、感動したんですけど、9言語で発信しているんですよね、献立表を。たぶん外国から来た人がすごく多いと思うのですが、ポルトガル、スペイン語など九つの言語で発信するってすごい。日本にいる外国人をどうするかは、外国人の多い他の地域でも課題になっています。センターではチームでどのように努力しているのか、また苦労というのはあるんでしょうか。

向井        給食の献立の翻訳のほうは、本庄市の取組みでやっていまして、こちらがつくった献立表を、市民活動推進課というところに送って、それを市役所のほうで専用の翻訳サーバーに落としてそのまま載せてもらうという形でやっています。給食センターだけではなくて、市町の教育委員会とか、市の職員さんらも含めて様々な方の協力でできていることだと思います。

馬場        それでは予定の時間も来ましたので、本日のシンポジウムをそろそろお開きとしたいと思います。今日は4人のパネリストの先生方から、食育情報発信についてどうしたらよいのか、様々な現状報告と、課題解決に向かってのご意見出し合っていただき、討論しました。食のリテラシー向上、あるいは、それを意識した教育活動。こういうことも視野に入れながら、私たちは取り組んでいく時代に差しかかってきたのだという共通認識が、今日のシンポジウムから得られたものだと思っております。先生方、どうもありがとうございました。