「日本の学校給食」第5回 学校給食で学ぶ日本の伝統行事
日本の学校給食は年間にしておおよそ190回提供されています。そのなかで子どもたちがいちばん楽しみにしているのが、「行事食」と呼ばれる特別な給食です。日本の伝統的な行事にちなんだ献立を出す場合が多いのですが、桃の節句(3月3日)や端午の節句(5月5日)など、そのルーツは中国が発祥という伝統行事も多く、日本の学校給食は深いところで中国と結びついているのです。
このような「行事食」の実情について、元小学校教師で現在は学校給食研究家・料理研究家として活躍中の吉原ひろこさんにお話をお聞きしました。吉原さんは、今までに400校もの学校給食を食べ歩き、学校給食の大切さを広く訴えていらっしゃいます。
吉原ひろこさんは親と子の心をつなぐクッキングセラピーを主催(右から3人目)
吉原さんは 学校給食応援団として「食育シンポジウム」などで学校給食の大切さを訴えています
―学校給食の行事食にはどのようなものがありますか?
日本の伝統的な年中行事にまつわる献立がメインですが、入学式や運動会など、学校の行事と連携させたものもあります。どの行事を選ぶかは、学校によって少し違いますが、主なものとしては次のようなものがあげられます。
1月=正月、2月=節分、3月=桃の節句(ひな祭り)、4月=入学祝い・進級祝い、5月=端午の節句、7月=七夕祭り、9月=お彼岸・お月見・菊の節句、10・11月=収穫祭、12月=冬至
日本の年中行事には旧暦の時代から続いている伝統的なものが多く、特に5節句と呼ばれる季節の節目ごとの行事は古く中国の唐の時代に遡ります。また豊作祈願や収穫を祝う行事など、農業と深く結びついているものもあります。
学校給食でも、このような季節の行事に合わせて献立を作り、子どもたちと共にお祝いする習慣ができました。
―いつ頃から学校給食に行事食が取り入れられるようになったのですか?
お米を主食とする米飯給食が始まったのは1970年代の後半からです。戦後、学校給食はアメリカからの救援物資によって再開された経緯もあり、パンが主食でした。ところが70年ごろから、収穫した米が国内で消費できなくなる「コメ余り」の状況になり、学校給食に積極的に米飯を取り入れる動きが広がっていったのです。
そして献立もそれまではパンにあう洋風料理が中心だったのが、米食にあう和食が徐々に取り入れられるようになりました。その結果、日本の伝統文化を伝える行事食やその土地に昔から伝わる郷土食が学校給食の献立に登場するようになったのです。
【正月献立(1月)】ごはん、牛乳、鮭そぼろ、白玉雑煮、紅白なます
【節分献立(2月)】ごはん、牛乳、煮魚(いわし)、揚げ大豆、豚汁
―行事食はどのような献立内容でしょうか
例えば、1月は正月料理ですが、日本のおせち料理の定番、「なます、煮物、雑煮」などが給食として出されます。ただお餅は調理がしづらいこともあって、雑煮にはお餅の代わりに白玉団子を入れたりしています。2月は節分です。鬼を追い払い、福を呼び込むための行事ですから、福豆(大豆)や鰯など、厄払いや魔よけの食材が出されます。
そして3月3日の「ひな祭り(桃の節句)」には、雛あられやお雛寿司、学校によっては縁起の良いはまぐりになぞらえて貝をお吸い物の具として出すところもあります。さらに7月7日の七夕祭りは織姫と彦星が、1年に一度、天の川を挟んで出会うという大変ロマンチックな日で、天の川に見立てたそうめんや七夕ゼリーが給食に出されます。
このような行事食は、献立をつくる栄養教諭やそれを調理する調理員たちの腕の見せどころでもありますから、どの学校でも子どもたちを喜ばせようとバラエティ豊かで、創意工夫がいっぱいの給食が登場します。
【七夕献立(7月)】五目ずし、牛乳、すましそうめん、えだまめ
―行事食を通じで子どもたちは何を学ぶのでしょうか?
もともとこういった日本の伝統行事にまつわる特別な料理は、それぞれの家庭で出されていました。ところが、最近は、昔ながらの大家族の家も少なくなり、また季節ごとに年中行事を行う家庭もあまり見られなくなりました。今や日本のお正月の伝統食である「お雑煮」すら、つくらない家庭が増えています。
そこで日本の学校給食では年中行事にちなんだ料理を提供し、それを通じて子どもたちに日本ならではの伝統やしきたりを教え、食文化を次の世代へと伝えていくことを大切にしたいと、行事食を出すようになりました。
行事食の日には、担任の先生が特別献立の意味を子どもたちに教えたり、給食委員の生徒が学校放送で行事の由来や、何故この日に特別な料理を食べるのかを説明します。このように「行事食」という特別な給食を通して、日本の子どもたちは自分たちの伝統文化や季節の節目、そして食の大切さを学んでいくのです。
取材:大森光枝 (全国学校給食甲子園事務局長)
写真提供:吉原ひろこさん
※なお、この記事は科学技術振興機構(JST)の中国向けポータルサイト「客観日本」で中国に配信されています。
http://www.keguanjp.com/kgjp_shehui/kgjp_sh_yishi/pt20160920102009.html