NO.58
ナリヒラダケ
5月28日
その姿が美しいことから、牧野富太郎博士は平安時代の六歌仙の一人で美男の誉れ高い在原業平の名前をとり、「業平竹(ナリヒラダケ)」と命名したとのことです。ちなみに、在原業平は今で言うプレーボーイであり、世界三大美人の小野小町とも浮名を流したとのことです。「世の中にたえてさくらのなかりせば春の心はのどけからまし」の歌も業平の歌となれば、単に自然の桜のことを歌ったとは思われません。その業平は880年5月28日に没したことから、この日は「業平忌」となっています。
ところで、5月の下旬頃は七十二候では小満の真ん中の候で、「紅花栄う」とされています。薊(あざみ)のようなかたちの花で、黄色からオレンジ色、そして赤に変化して、その花は赤系の染料として使われて、特に、女性が使用する口紅の原料となります。生産地としては山形県の最上地域が有名で、松尾芭蕉も「眉掃きを俤(おもかげ)にして紅の花」と『奥の細道』で詠んでいます。と同時に違う歌集で「生く末は誰が肌ふれむ紅の花」と、芭蕉には珍しく艶やかな俳句を残しています。
文:椋 周二