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3th contest 2008年 第3回大会

「地元食材活かし安全でおいしい給食作りを誓います

午前9時45分すぎ。いよいよ開会式が始まった。工藤智規実行委員長の開会宣言に続いて、島根県松江市立八雲学校給食センターの長島美保子さんが右手を上げて選手宣誓を行った。「郷土の食材を活かした安全で、おいしく、楽しい学校給食を調理するプロフェッショナル精神にのっとり、子どもたちが喜ぶ、おいしい学校給食を作ることを誓います」。給食のプロの自信と誇りにあふれた言葉。1329の全出場チームばかりか全国の給食のプロたちに共通する誓いだ。

12人の審査委員に続いて選手が紹介された。白のキャップと白の上下の調理スタイルに身を包んだ24人の顔は上気している。「いつものように慌てないでやれば大丈夫だから」。ベテランが若手に声を掛ける。昨日の前夜祭では和やかな雰囲気だった会場は張り詰めた空気に包まれた。

「スタート!」 仕事師の技、全開だ

調理実習室の12台の調理台に各チームが揃った。工藤実行委員長の「スタート」の声を合図に一斉に1時間の調理対決が始まった。駆けつけた応援陣が窓越しに心配げな視線を送る。狭い通路にはテレビカメラのクルーや各メディアの取材記者が交錯する。外は東京ではこの冬一番の冷え込みだというのに、汗がにじむ。

選手はまず手洗い。ひじまで丁寧に殺菌する。安全は食材ばかりではない。基本動作から審査対象だ。

「タンタンタン」。リズミカルな包丁の音が響く。使い慣れた包丁が魔術のように野菜を刻む。今回は昨年以上に手順がいい。ニラもセリも鮮やかな緑、ニンジンのオレンジ色がまぶしい。生きている。食材が生きている。

審査委員が調理台を回る。基本は守られているか。調理台は整理整頓さているか。視線は厳しい。選手は一心不乱。騒がしい周りとは無関係に目の前の作業に没頭する。仕事師の姿だ。

野菜が踊る。煮物が音を立てる。箸が動く

調理は佳境に入った。

「加熱始めます」「はい」。「77度です。加熱続けます」「はい」。声掛けはチームワークの鉄則。互いの作業を確認し、流れはスムーズになる。後は黙々と自分の作業を続ける。時折、視線で確認する。あうんの呼吸。仲間同士の信頼がある。

15分経過。ガスに火が入る。しっかりはらわたを取った煮干がなべの中で踊る。だしの香りが漂う。ひじきが煮上がった。湯気が上がる。玄海灘の香りだろうか。煮物が進む。実習室においしい匂いが広がる。

食材に触る指先がやさしい。自然の恵みに感謝し、「おいしくなーれ」と呼び掛けているようだ。急ぎながら、決して乱暴ではない。愛情を込めて調理するとはこういうことか。食材と会話しているかのようだ。

さっき練り上げられ、お湯の上でスピード発酵させた生地がもうクロワッサンの形に変わった。生地の中にもエゴマ。上にもこげ茶色のエゴマが振られている。

フライパンが振られる。野菜が踊る。煮物が音を立てる。箸が動く。手馴れた技の連続だ。それにしてもいい香り。朝はしっかり食べたのに、つばが出てきた。腹が鳴る。そりゃそうだ。勢ぞろいした日本列島の自慢食材を心をこめて作っているのだから、いい匂いが当たり前だ。

全チーム完了。みんな仲間、広がる笑顔

30分経った。揚げ物の時間。油の中でイカナゴが、ハタハタが「ジュージュー」言っている。ゴボウも油の中。あっちでこっちで揚げ物が始まった。

デザートに掛かるチームが出てきた。りんごがみるみるかわいいウサギに変身した。ごまたっぷりの柿が甘そうだ。こんなおいしい給食食べているのか。うらやましーい。

残り15分。盛り付けが始まる。5人分の盛り付けまでを時間内に仕上げるのがルール。ここからが最後の戦いだ。出来た献立をなべから器に。てきぱきと2人の動きが続く。汁物は最後まで火に掛け温かく。冷たいデザートは氷を入れた容器の中で冷やす。

早いチームは片付けを始める。まだ、終わらないチームもいる。しかし焦りの色は見えない。「大丈夫」。いつも通りにやれば仕上がる。練習も積んできた。リーダーの顔に笑みが漏れる。

残り30秒。間に合った。全チーム出来上がった。何も考えなかった1時間。ただいつも通り、給食を作った。敵はいない。みんな仲間。「子どもの食を守る」同士だ。笑顔が部屋中に広がった。