2009年 第4回大会

「おいしい!」「工夫されてるね」、悩む審査員

 出来上がった給食が審査会場に並べられた。テーブルに6チームずつ。自慢の給食のオンパレードだ。
 12人の審査員が順に味見する。まず色や形といった全体をチェック。そして、一口ずつ味わう。「今年はどれもおいしいわ」「本当に年々レベルが上がっている」「子どもの苦手な食材も食べやすいように工夫されている」「薄い味だけどしっかりしている。子どもたちも食べやすいでしょうね」。報道陣の質問に高い評価の感想が聞かれた。
 「子どもたちが楽しんで食べるかどうか」を基準に評価する審査員。地元の食材をどう工夫して活かしているかを重視する審査員。味のバランスを気にする審査員。個人差は少しずつあるが、プロの目は厳しいのだ。

 どれも単に地元の特産品を使っているというレベルは遥かに超えた完成度だ。「煮物は家庭で作らなくなってきた。だから給食で作り、家庭にフィードバックしたい」。食育は家庭を巻き込み、食文化全体の改善を目指す。「家庭への連絡をしっかりやっているところが多い」。
 「決勝に出てくるようなトップレベルはやはり違いますね。味も色合いもよく作られています」。それだけ審査は微妙になってきた。「頭が痛いわ」。今年も審査員を悩ませていた。

栄冠は上越市立春日新田小に

 朝、選手宣誓が行われた会場に24人が座り、審査結果を待った。予定の午後2時を過ぎても、始まらない。じりじりした時間が過ぎていく。
20分遅れて、ようやく審査委員が会場に入ってきた。いよいよ結果が発表される。まず、全チームに入賞の表彰。次に特別賞から発表される。「21世紀構想研究会特別賞は青森市立油川小学校」。長沼裕美子さんと工藤一史さんのコンビは壇上で小さくガッツポーズ。

準優勝は中部・近畿ブロック代表の和歌山市立有功(いさお)小学校に決まった。高橋啓子さんは朝、選手宣誓したばかり。「朝に続いてで…。ありがとうございました」とベテランらしく静かに喜びにひたった。倉八由佳さんは「有功のみんなありがとう」。言葉が途切れた。

最後に優勝の発表。「新潟県上越市立春日新田小学校」。宮澤富美子さんと植木節子さんの2人は顔を見合わせ、「やったね」とうなずき合った。日本食の基本に忠実にバランスに気を配った献立。給食で大量に作るのは難しいとされる玉子焼きを丁寧な手作りでカバーした。「ひとつひとつ心をこめて作りました」。ごはん食にこだわり、昔からある打ち豆で味噌汁を作った。37年の給食作りが凝縮された献立だった。派手なパフォーマンスは似合わない。いぶし銀の優勝だ。

「信頼」の大ベテランコンビが「心をこめた」
〜上越市立春日新田小の宮澤さん、植木さん〜

 優勝した新潟県上越市立春日新田小学校の宮澤富美子さんと植木節子さんはこの春めぐり合った。給食にたずさわって共に37年のベテラン同士だった。調理チーフの植木さんと宮澤さんの信頼は互いに厚い。力強いパートナーなのだ。常にプロの仕事をする。だから互いに認め合い、尊重する。チームワークの秘訣は「信頼」という宮澤さんの横でうなずく植木さん。「宮澤さんを信頼してついてきただけです」と言えば「植木さんは世界一の調理チームのリーダー」と返した。
 優勝の理由を聞かれて、「練習してきました。今日は練習の結果だと思っています」と植木さん。宮澤さんは「緊張しましたが、タマタマトマピーチーズ焼きもひじき佃煮もゴマネーズ和えも打ち豆みそ汁も、心をこめて作りました」。揺るぎないプロの誇りを見せ付けた。

「水曜日のお楽しみ給食で今日の献立を出します。その時は今日のエプロンを着ます」と宮澤さん。優勝の喜びを子どもたちと一緒に分け合いたいということだろう。
920食を作る大規模校。「でも食べる子どもは一人ひとり。大量でもそれを意識しながら作ろうと毎日植木チーフはスタッフに声を掛けている」と、宮澤さんは心のこもった給食の精神を話す。学校現場も食育に熱心で先生も必ず一緒に食べるなど給食の重要性に理解と協力を惜しまない。
37年の職歴は大ベテランの域に入るが、宮澤さんは「失敗の大ベテランなんです。でも調理員が助けてくれたりして。失敗してもただでは起きないぞ、と思う性格なので」と謙遜する。